片山さんの流儀

 図書館から借りている片山杜秀さんの伊福部昭伝を読みついでいますが、

片山さんの語り口調が聞こえてくるような文章で、とてもライブ感がありです。

 片山さんといえば、古い番組を録画したビデオテープを、とんでもない量を

保存していることは知られていますが、もちろん音楽関係の資料もすごいもの

と思われます。

 今回の伊福部伝には、資料探索について書いてあるところがあって、その

ところがとっても楽しいものでした。

 ということで、片山杜秀さんの古本の流儀であります。

「見渡す限り、古本の海。水平に並ぶ平台ワゴンと、本棚風に立てられて垂直

に並ぶ本箱が、何列も折り重なって、大洋か大山嶺の如く果てしなく続く。

ここは新宿の百貨店伊勢丹本館の催事場。毎年恒例の古本市が開かれてい

る。時は1985年。その初日だったか、二日目だったか。午前中の早めの時間

にはそこに居た。全部の棚を一巡し、欲しい本を抱えて回って見つくろい、予算

に合わせて泣く泣く購入書籍を絞りきり、帳場に持ってゆく。そこまで辿り着くに

は、八時間は欲しい。」

 1985年といえば片山さん22歳でありますので、まだ大学学部生のころで

しょうか。卒業後は大学院に進学するのですから、専攻に関する専門書等を

探すということもあったでしょうが、それ以外にも音楽関係の資料も探してい

たとのことです。

「御昼頃であった。どこの古書店のワゴンだったか。壁際の一角に、ただならぬ

区画を見つけた。楽譜が多く含まれている。古本市に楽譜がまとめて出ることは

珍しくはない。だが、中身が普通とは違った。・・その日のその棚は異次元だった。

戦前・戦中のものがある!しかも格安。出品していた古書店は音楽にあまり強く

なかったようだ。」

 この異次元の棚の前で、片山さんが用意した資金では、欲しい物をすべて購

入することはできなかったとあります。

「いずれも値段は1500円くらい。繰り返すが、想像を絶する安値である。だいたい

売り物になる現物があることが信じられぬようなものばかり。欣喜雀躍というの

はこのこと。けれども、それなりに仕込んできたつもりではあったが、所詮は学生

の財布だ。すっからかんになっても、これはもう買い切れぬ。歓喜が悲嘆に切り替

わってきたところで、決定的な出物が眼前に出現した。伊福部昭の『土俗的三連

画』の総譜である。」

 伊福部昭の「土俗的三連画」は昭和12年の作品で、当時のことでありますので、

一度演奏されたくらいで、レコードにもなっていなくて、スコアがなければ再演も

できないことにです。

 片山さんは入手した総譜を手に、伊福部邸を訪問し、サインをしてもらおうと

思って話をしたところ、伊福部さんから、音楽之友社が「土俗的三連画」を復刊す

る計画があるけど、自分の手元には譜面が残っていないので、これをくれませんか

と言われて、師匠からそういわれれば、いやとはいえずで、最大の収穫を贈呈する

ことになったとのことです。

 それにしても、このとき22歳くらいでありますから、すごいことです。