残りが少なくなると、読むのがもったいなくなって、あと少しなのに、止めて
います。もちろん絲山秋子さんの「まっとうな人生」であります。
絲山秋子さんは、ご自分で病気を持っているといっているのですが、その体験を
「絲的ココロエ」というエッセイにまとめていまして、当方は彼女の作品以上に
その本が好みであります。そこまでいうなら買いなさいなでありますが、これも
図書館から借りて読んだのでした。
以前に「逃亡くそたわけ」を読んだ時には、あまりピンとこなかったのですが、
その後日譚ともいえる、今回の作品は、「逃亡くそたわけ」に「絲的ココロエ」を
混ぜ込んだ内容となっていて、帯にもありましたが「新しい代表作」といえそうに
思うことです。
登場人物も前作より20年近く年齢を重ね、しかもそれぞれが家庭をもったという
のが作品に幅と奥行がでたように感じます。
当方的に、付け加えるとすると、舞台が富山県というのがうれしいのですね。
表紙をめくり、タイトルの次には表紙の装画をされている長崎訓子さんによる
富山県の地図があって、それには「まっとうな人生」の舞台とあります。
この地図を見るだけでも楽しい気分になるのでありますよ。
それというのも、この作中人物にこのように言わせているからですね。
「嫁に来たとき、九州なんてよくもまあそんな遠くから、と感心されたあたしに
とって、かれらが北海道のことを『誇張でもなんでもなくて、感覚的には隣町く
らいに思っている』というのは驚きだ。この人たちの心にはどんな形の地図があ
るのだろうと思う。北前船に乗っていた先祖や屯田兵の親戚、船団を組んでまぐ
ろ漁に出かける家族がいなくても近いと思っている。その近さは謎だ。」
絲山さんは、富山県とどのような接点があったのかわかりませんが、すくなく
とも、この作品が当方にアピールするのは、このくだりがあるからであります。
北海道人にとって、富山が近い存在であるのかどうかはわからなくなっていま
すが、何代か前に富山から渡ってきた家が、かなりあることは事実であり、当方
のところも明治中期に入植したのでありました。
前の北海道知事(現参議院議員)さんは、富山出身でありまして、彼女が人気
を得たのは、富山出身というのもあったのかなです。
この作品は、富山県人にはどのように受け入れられているのか、興味のあると
ころですが、もちろん、北海道にも富山にも関係のない読者にもおすすめのもの
です。