なかなか一気には読むことができずで、いまだに絲山秋子さんの「まっとうな
人生」を手にしています。半分は越えたのでありますが、250ページほどの小説
ですから、最後にたどりつくのは、そんなに難しくないのですが、早く読む必要
はないのでありますね。
この本の帯には「新たな代表作」とありましたので、それをすこしでも実感し
たく思うのですね。ちなみに、この「まっとうな人生」は、その昔の「逃亡くそ
たわけ」の後日譚ということですので、絲山さんにとっては「逃亡くそたわけ」
の登場人物には愛着があったということがわかります。
当方は、この「逃亡くそたわけ」は文庫本で読んでいるのですが、すっかりと
忘れていて、これを機にひっぱりだしてこようと思っているところです。
(「逃亡くそたわけ」が2007年に映画となっているのも知りませんでした。)
書き下ろしで刊行された前作から15年ほど経過しての執筆となりますが、その
間に前作の主人公たちは、それぞれ住む場所がかわり、家庭をもつことになるの
ですが、もちろん病気を抱えながら、それとの折り合いをつけて日々を暮らす
ことになりです。
ちょうどこの時期は新型コロナの流行で、日常生活が大きく変わっていくとき
でありまして、その時代を病気を抱える自分は、そして家族はどのように対処し
ていくのかということが描かれます。
このコロナ禍にあっては、コロナ鬱というような感じに陥った人がいましたが、
普段からメンタルに不安を抱えている人たちは、どうしのいだのでありましょう。
体調が悪い日のあたしのことを、絲山さんは、次のように書いています。
もちろん、作中人物を通じてです。
「家族がいなくなってから布団に戻ったあたしは悪習にふける。凶悪事件や差別
発言の記事、さまざまなトピックでネットの炎上などを見つけては、ジャンクフー
ドみたいにぼりぼり囓るのだ。まるで怒りを食べて生きているみたいだ。自分が
家族に迷惑をかけていることを、その罪悪感を少しでも消すためにもっとだめな
やつを見つけて、少しでも自分がマシと思って溜飲を下げようとしているのだ。
見るだけではなくて一緒になって激しい言葉を使い、見知らぬ人を責めたくなる。」
別に病気を抱えている主人公ならずとも、このような思いに至ることはあるこ
とでして、病気を抱えている人と抱えていない人の境目というのはいつも曖昧で
あります。