薬に詳しいことであり

 図書館から借りている絲山秋子さんの「逃亡くそたわけ」を読んでいます。

 先日に絲山さんの新作「まっとうな人生」を読みましたら、この作品は「逃亡

くそたわけ」の続編のようにもなっていることから、3年ほど前に読んですっかり

と忘れている「逃亡くそたわけ」を、また読んでみようと思ったのです。

 当方が2019年にこの本を読んだのは、てっきり安価な文庫本を購入して、そ

の本でと思っておりましたが、確認をしてみましたら、前回も図書館本でありまし

て、3年を経て、また借り出したということになります。

 

 「逃亡くそたわけ」は、若い男女二人が入院中の病院から逃亡して、古い自動車

(白のマツダルーチェ 昭和62年マニュアル車という渋さ)で、逃避行(?)を

企てるというロードムービーのようなお話。

 若い二人が出会ったのは、「福岡タワーに近い百道病院という精神病院で、男女

共同の開放病棟」とのことです。女性は21歳の福岡の私立大学生で、男性は大学

を卒業し、NTTの子会社に入って福岡に転勤してまもなく不調となった24歳であ

ります。

 この二人は、どちらも若くてそんなに病歴は長くはないのでありますが、二人の

会話には、当然のことのように薬の名前があがってきます。

「あたしはそんな物騒なことより、ちゃんと効く薬が欲しかった。

レボトミンないと?』

『そんな薬聞いたこともない』 

ヒルナミンがあるやん、ヒルナミンレボトミンは一緒の薬たい』

『ああ、それ眠剤の補助に使ってる。』

『あとは何飲みようと?』

ロヒプノール

『ロヒはあたしも要るっちゃが。ようけあると?』

『一シート』

 残りはあたしには効かないものばかりだった。なごやんもへなちょこだが、

薬もへなちょこ薬ばかりだ。あたしは今は躁が強いから抗鬱剤は要らないけれど

リーマスがいる。どこかでメレリルも手に入れたい。」

文中でカタカナで表示されていて、なじみがないのは、すべて薬(もちろん医師の

処方がなくては手にすることのできないもの)の名前でありますね。

 ここに登場する薬のことをご存知の方は、自ら服用しているか、それとも知友人

に服用している方がいるからでありますね。

 この小説のお二人は、そんなに長いこと病気と付き合っているわけではないの

ですが、すでに病歴50年なんて人もいることでありまして、そうした人たちは、

自分の身体で薬の効果を確認していることもあって、自分の身体にどの薬が効く

のかはよくご存知でありまして、若い医師よりも、この病気については身にしみて 

知っていたりです。

 そんなこともあって、ついつい診察室では若い医師に対して小馬鹿にするような

態度をとって、医師に嫌がられたりするようです。

なんたって、机上の学習ではなく、経験を通じて学んでいる人は叩き上げで、良く

わかっているのですが、ついつい行き過ぎたりするのでありますね。