思いがけずで

 図書館から借りている本の返却日が近くなったものですから継続して借り

るものと返してしまうものの仕分けに入ることになりです。

 まるで読むことができていないものを、あわてて手にしたりです。

三浦清宏さんの「運命の謎 小島信夫と私」は、冒頭のところを見ただけです

ので、その先のところも見てみることにです。

 これを見ていましたら、思いがけない名前に行き当たりました。次のように

あります。

「その頃私は世田谷の碑文谷にある親戚の家に居候していました。

 これも私にとって幸運でしたが、私の母の従兄であった南條徳男という北海道

四区選出の自民党の代議士が、建設大臣、農林大臣を歴任して、学芸大学から少

し行った碑文谷公園そばの、昔、東郷元帥の邸宅だったという大きな家に住んで

いまいした。」

 ということで、思いがけない名前とは代議士である南條徳男であります。

当方はほとんど馴染みはないのですが、旧北海道四区というのは当方の居住して

いるところも含む選挙区で、当方の町にも南條派というのがいましたです。

そうなのか、三浦さんは室蘭出身で南條さんとは親戚関係であるのかです。

 三浦さんは留学からヨーロッパ放浪を経て、帰国してから南條徳男の世話で就

職するのだそうです。その会社は、「太平洋テレビジョン」というUSAのTVドラ

マの放映権を買って、日本のTV局に売り込むのが仕事であったとのことです。

代表的な作品には、「ララミー牧場」「ローハイド」「アンタッチャブル」など

があったとのことですから、会社の名前は知らなくとも、ここが扱った作品は

見ていることです。

 この会社の職員さんについては、次のようにあります。

NHKのラジオ番組『カムカム英語』で有名だった平川唯一さんが、吹き替え部

の部長をしていて、当時の名のある俳優たちが吹き替えをやっていました。」

 この会社に入った三浦さんは、いきなり「一番奥の総務部長の席に座らせられ

た」のだそうです。いかにもいかがわしそうな会社でありますが、「総務部長」

は名ばかりで、実質は外人接待役とあります。語学が堪能なのを見込まれたよう

です。

 ここにやはりコネで入ってきた社員についてであります。

「私が入社して少し経ってから、南條の息子も入社してきたのです。

『清宏ちゃんもいるんだから、行きなさい』と親から言われたと、本人が言って

ました。配属は営業でした。

 この息子は、じつは、親も手を焼いていたのです。決して性格の悪い男ではな

く、むしろ親に似て親分肌の人付き合いのいい人間でしたが、これも親に似て、

おだてに乗りやすく、しかし親と違って、分別がない。金遣いが荒くて、賭博に

も手を出す、という道楽息子で、親も心配して、大学を卒業してから、何度か

資金を出して仕事をさせようとしたのですが、かえって家の金をずいぶん使い

込み、南條の秘書や使用人からは、『何もしないでいてくれた方が、よっぽど

いい』と陰口をたたかれていたのです。」

 三浦さんと、小島信夫さんの交流について書かれた本で、ひょっとすると当方

に一番気に入ったのは、ここであるかもしれませんです。

 当方は、この南條徳男さんの息子さんについては、まるで知らないのですが、

南條さんは政界を引退して、その後をこの息子さんが継ぐことはなしでありまし

て、どこぞの二世代議士のように世間に迷惑をかけることもなしでありました。

(ちなみに紆余曲折があったのち、この地盤を譲りうけたのは鳩山由紀夫さんで

ありました。)

 この会社時代のことは、三浦さんは小説にしているとのことで、それを読んで

みなくてはです。