静かな本

 当方はおしゃべりは好きでありますし、好きな音楽は大音量で聴くほうが

いいのでありますが、騒々しいのは嫌いであります。

 知恵を含まない雄弁やおれがおれがという発言は、一番耳にしたくないも

のとなります。その結果、ワイドショーとかニュースショーにはまるで縁がなく

なり、よく売れる本を手にすることもほとんどなしです。

 編集工房ノアさんが刊行する本は、一番売れるものが山田稔さんのものと

いわれるのですから(これは京都三月書房のお話)、山田稔さんってそんなに

売れる人かいなということになり、じゃほかはどうなのだろうであります。

 先日にノアさんから送っていただいた「海鳴り」巻末の刊行一覧をみますと

初めのほうに山田稔さん、以倉紘平さん、杉山平一さん、天野忠さん、庄野英二

さんなどの本がずらっとならんでいます。かっては鶴見俊輔さんとか足立巻一

さん、富士正晴さんのものもかなりあったのですが、こちらは残っているものが

少なくなっているようです。

 どれも騒々しいとは無縁のものばかりでありまして、こんな出版を続けていま

したら、「ノアをつぶしたらいかん」という声があがるのも当然のことになりです。

「ノアをつぶしたらいかん」といったのは、足立巻一さんや庄野英二さんたちで

ありまして、それを言われていたのは大谷晃一さんでありますが、いずれもノア

から本を刊行するだけでなく、若い人たちの発表の場としてノアを重要と捉えて

いたのでありましょう。

 ということで、「海鳴り」巻末の目録ページからノアの静かな本を注文するこ

ととしました。昨日にこれが届きましたので、心をしずめるために手にして読む

こととしました。

 2014年に亡くなった大谷晃一さんが、1985年に刊行した「表彰の果て」

という散文集となります。冒頭に置かれた作品は「霧の中」というタイトルです

が、大谷さんが武田麟太郎の評伝を書くための調査をしていたときの話とな

ります。

 大谷さんは元新聞記者ですから、とにかくこれ以上はできないと思えるとこ

ろまで調査を尽くすというのがポリシーであります。調査が壁にあたるのは、

いつものことで、それをどのようにして乗り越えていくかということで参考にな

ることでありました。

 この「霧の中」の書き出しは、この本の帯にも引かれていました。

「かって、霧部薫という人がいた。

私は手を尽くしてこの人を追い求めた。が、その実像は模糊としてつかまえ難

い、何としたことか。」

 霧渡薫(きりわたかおる)という人は、武田麟太郎と早くに死別した母の父

ということでありますが、「霧渡」という姓も含めて、この人のことを調べるに

苦労したあって、この人のことについてスルーしても評伝は成立するのでは

ないかと思うのは、評伝には縁のない人がいうことですね。

 大谷晃一さんは「大阪学」で著名な方ですが、ノアの柄沢さんが「人の世

やちまた」で取り上げていました。

大阪学

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