古田晁記念館資料集 5

 古田晁さん宛の手紙で一番多いのは、古田さんが送ったお菓子などへの礼状であり
まして、これなどはさほど面白いものではありません。
興味をひくのは出版企画に関してのものとなりますが、これはかなり相手が限られて
います。
 読んで愉快なのは、いわば飲み仲間ともいえるような深瀬基寛さんからの25本であり
まして、昭和29年から昭和41年にかけてのものですが、最初のものは出版についての
内容でありますが、後年のものは、ほとんど東京と京都に離れた二人が、飲み屋の話
とかバーのママについての情報をかわしている趣であります。
 古田さんは、とんでもない飲んべえでありますが、深瀬さんも同様であるらしで、
多くの逸話が残っているようです。深瀬さんのこうした側面は「日本の沙漠のなかに」
を手にしても察することはできないようです。
 この資料集に引用されている深瀬さんについてのエピソードです。
もともとは「歴程」98号「深瀬基寛追悼号」に掲載の「鈴木成高」さんの文中にある
ものとのことです。
「月給といえば三高の月給日に深瀬さんと深瀬夫人が会計課で鉢合わせして互いに先
取権を主張して係員を狼狽させたという珍談が残っている。九十年におよぶ三高史の
上で、会計課で月給争奪戦を演じたというのは前後に例がないようである。」
 いまは給料は口座振り込みとなっていますので、窓口で現金で受け取りというのは、
まったくといっていいほどないはずですが、その昔は印鑑を持参して窓口で給料袋に
はいった現金を受け取っていたものです。
 もちろん、普通は働いている本人が受け取るのでありますが、そこに家族が受け取
りに現れるのは、本人が受け取ることができないか、それでなければよほどのわけが
あることになります。
 深瀬さんの場合は、わけありのほうでありましょう。給料をもらったら、その足で
夜の街にでて、たまっていた支払いなどをしてから、空となった給料袋を手にして
帰宅するというのが、いつものことであったと思われます。
 こういう方の酒飲み談義が面白くないわけがなしです。