古田晁記念館資料集 8

 古田晁記念館資料集に収録の書簡で大いに楽しんでいます。
 かっての作家の個人全集には書簡集というので一冊あてられていたものですが、最近
は作家の全集といっても、その昔の全集らしい趣のものは減っていて、作品集というか
選集というものがほとんどではないでしょうか。まあ売れないのでありますからして、
しょうがないかもしれません。
 古田資料集に収録された書簡は、ほぼすべて公開されることを前提とはしていないこ
とで、それが普段着の作家さんや学者さん、そして古田さんの経営者として、家長とし
てのありようをのぞかせてくれます。
 筑摩書房の社員でありながらモスクワへといっていた松下裕さんや「世界版画大系」
のためにパリに出張していた小宮正弘さんへあてられた書簡は、異郷で不安を抱きなが
ら仕事をしていた社員さんとその家族を励ましたことと思われます。
 最近は、インターネットの普及によりまして、海外にいましても顔を見ながら話を
することが容易になっていますし、連絡はメールをつかえば時間差はなしであります。
これはめでたいのですが、後世に書簡集のようなものが残らなくなるというのは、すこ
し残念な気もします。
 これは資料集でありますから、書簡が記された日付だけでなく、消印などもしっかり
と記載されています。宛先についてもそのままに記載されていて、古田さんのご子息が
海外に赴任しているときはその住所が英文字で、松下裕さんがモスクワに駐在している
ときは、モスクワの住所がロシア語表記でされています。
こうでありますので、清水町先生といわれる井伏鱒二さんの住所が杉並区清水・・とあ
るのを見て納得ですし、知人とラブレー学者の渡辺一夫さんは、どこに住んでいたのか
と話題になったことの答えもここにありました。
 最近は個人情報のこともあり、住所などは公にならないのが普通になっていますので、
こうした編集をすること自体が難しくなっているかと思います。
 それにしても、いろんな意味で楽しむことができる資料集です。