小沢信男著作 37

 小沢信男さんは、もともとは小説家といわれていましたが、作品数が少なく小説だけで
一冊となっているのは、「わが忘れなば」と「小説昭和十一年」の二つだけで、あとは
「若きマチュウの悩み」とか「東京の人に送る恋文」のように、小説の他にもいろいろな
文章が混在して小沢ワールドを展開することになります。「東京の人に送る恋文」のあと
小説がまとまって収録されたのは14年後の「東京百景」(河出書房 89年刊)となりま
す。
「東京百景」を話題にするには、すこし時間が空きすぎますので、その間の著作を話題と
しましょう。
 刊行された順としては、次は「戯曲 故事新編」となるのですが、これは単独の戯曲集
ではありませんので、あとまわしにしてと、次はこのものとなります。
「大東京24時間散歩」 現代書林 79年8月8日 980円

大東京24時間散歩 (1979年)

大東京24時間散歩 (1979年)

 小沢さんの「東京町歩き」ものは、これから始まるのですが、本のなりたちについて
あとがきから引用します。( この本のあとがきは、モシモシという呼びかけからはじ
まっていますが、電話による会話体になっています。小沢さんには「モシモシ」という
作品もありました。)
 この「大東京24時間散歩」のサブタイトルをと問われての答えです。
「うん。<1970年代の東京の労働と余暇に関するレポート>というのはどうだろう。
なんといっても第三章が中心で、都市と労働の関係について、手前味噌ながら、ちょっと
独自な記録ではあろうと思うんだ。これだけでも読んでいただけたらありがたい。
 そしてその前後に、下町散策記、映画批評、外遊記などを配置して、単にエッセイ集に
とどまらず、全体として、今日の東京を構造的に捉えなおしための、水先案内の書でも
ある。」
 このおおまじめなサブタイルについては、電話の相手からひやかされて、当然のこと
没になるのですが、これまた小沢さんの芸の見本市のような一冊となりまして、この
なかにある下町散策記が、その後の柱の一つになりました。