早いのはネット情報でありまして、誰それが亡くなったとか、不倫をしたと
いう早耳話題は、ネットが提供してくれているようです。なかなかその中身が
伴わずでありまして、もうすこし、このところを詳しくさと、不倫ではなく、
当方が関心をいだいている方の訃報を目にしますと、強く感じることでありま
す。
本日に目にした訃報は、中井久夫さんが亡くなったという記事でありました。
療養をされていたようですが、とうとう亡くなられたとのことで、野暮用から
戻って中井英夫さんのみすずからでたエッセイ集を手にすることにです。
頭が良くて、詩を好んで、精神科医であるという、なかなかこれからはでて
こないのではないかというタイプの文筆家。平易に書かれているようで、読む
と歯が立たなかったりするのですが、読めそうに思えたり、面白く感じさせる
のが中井流であります。
ということで、わかりもしないのに、みすずからでたエッセイのシリーズを
求めて背表紙をながめて暮らしておりました。
晩年になるまでワープロを利用していたはずでありまして、最後に発表された
文章はいつ頃のどのようなものであるのか、気になることであります。
本日に手にした「記憶の肖像」に収録の「国際化と日本」という文章から引用
です。
「国際化のためには、何よりまず『フェア』という感覚が身についている必要が
ある。この感覚こそ人類に通じるものであり、他は二の次とさえ言ってよいくら
いである。この感覚は元来の日本にあった。商人道にも農民魂にも武士道にも
ある。日露戦争には『フェア』であろうとする努力が双方に見られた。」
1991年12月26日 神戸新聞に寄せたものにあった一節です。
最近の世相をご覧になられたら、中井久夫さんはどのような感想をもたれたこと
でありましょう。