チャトウィンの伝記が刊行されたのを機に、手元にある小説を読み返してみ
ようと池内紀さん翻訳の「ウッツ男爵」をのぞいておりました。
はじめて読んだのは白水社のUブックス版でありまして、それから6年も
たっていました。ほとんどまったく覚えていなくって、どんな小説でも当方の
読み方でありましたら、一度ではまったく頭に入らないということがわかりま
した。(今回の読みでも、5年もしたらすっかり忘れているかもです。)
次の小説を何にしようかと考えながら、手近にある森まゆみさんの「本とあ
るく旅」をのぞいていましたら、「『土佐の墓』はすごい」という文章があって、
それには、次のようにありです。(高知市を訪ねて、そこの書店で「土佐の墓」と
いう本を購入し、それによって土佐の墓めぐりをした話となりますが。)
「ところが歩いていたら寺田寅彦の旧居に出くわしてしまった。それは美しく
復元され、庭をのぞむ和室で折しも一弦琴の会の最中だった。」
ということで、寺田寅彦が土佐の人であったことに思いいたり、「土佐の墓」で
寺田の墓を確認することになります。この墓にいって、「寅彦よりも、妻たちの墓
に魅かれた。」とありました。妻たちですから複数人ですが、これに続いて森さん
は、その妻たちの名前を記しているのですが、「同じ夫を持った三人の妻が、同じ
大きさの石で同じ方向を向いて並んでいた。」とありました。
森さんは、「本とあるく旅」で漱石の周辺では「寺田寅彦を随一の文書家」と
いってますので、寺田への関心もあるのでありましょう。
寺田寅彦といえば、いま図書館から借りている本に「ふだん着の寺田寅彦」と
いう本がありました。
この本の著者は池内了さんですから、池内紀さんからのつながりとなりますね。
弟である了さんは理系の研究者で専門は宇宙論と科学技術社会論とありました。
せっかくでありますので、森さんの話題とかぶるところを「ふだん着の寅彦」
から探して読むことにしました。
第三章「癇癪持ちの寅彦」というところや、その次の「心配性の寅彦」という
ところに妻のこと、家族のことがでてきます。
当方はその昔に岩波文庫に入っている寅彦随筆集を買って、まったく読むことが
出来なかったことを思いだしました。もう50年近くも前のことですが、その頃
はこのようなプライベートな話からのアプローチはなかったですね。