本日の最大ニュースは「南北首脳歴史的握手」をめぐるものでありまして、歴史的
とあったので、これは歴史上初めてのことかなと思いましたら、10年半ぶりのことな
のだそうです。前回の時にも、たぶんこのように話題となったのでしょうが、すっか
り忘れているということは、歴史的握手をしても、多くを望んではいけないというこ
とでしょうか。それでも、握手はしないよりもしたほうがよろしでありましょう。
昨日に話題とした後藤明生さんは、朝鮮半島のお生まれでありまして、内地に引き
上げるまでは北朝鮮で暮らしていました。
あちこちに、そのことについて言及している文章があるのですが、たまたま、先日に
購入した「もう一つの目」に収録の文章「ソウルの同級生」(初出「旅」86年4月号)
には、次のようなくだりがありました。
「一昨年の十一月、ソウルで中学の同級生・李浩哲(イー・ホチョル)に再会した。
わたしは敗戦の翌年、北朝鮮から引き揚げて来た人間で、李浩哲は北朝鮮の元山中学
(旧制)の同級生である。現在、彼は韓国の中堅作家で、幾つかの作品は日本語にも
翻訳されている。
一昨年の韓国行きは、はじめてだった。実は何年か前、ソウルの元山中学同窓会か
ら招待を受けた。しかし、そのときは何となく億劫で、出かけなかった。
朝鮮半島の南北両国に関して、わたしはどちらのイデオロギーをも、特に支持して
いない。ただ、どうせ旅行するのであれば、自分が生まれ育った、中学一年まで暮し
た北側も自由に旅行できる状態がのぞましい、と思っている。ソウルの同窓会から
招待されたときの、わたしの”億劫”には、そんな気持ちも含まれていたと思う。」
この文章が書かれた頃の朝鮮半島は、北の共和国は金日成が健在で、南の大韓民国
は全斗煥軍事政権でありまして、どちらも民主国家には、ほど遠いものでありまし
た。
それから30年が経過して、北の共和国は変わったとは思えませんが、南は経済成長
を背景として、ずいぶんと変わったように感じることです。それでも南の国民には、
北に甘い顔を見せるのを快く思わない人もいるのでありましょうね。
後藤明生さんが存命ならば、こうした歴史的握手は大歓迎でありましたでしょう。