「図書」4月号 2

「図書」4月号巻頭におかれているのは、岩佐美代子さん(国文学者)の「じわが湧
く」という文章です。1926年生まれとありますので、そろそろ米寿というお方です。
「歌舞伎芝居には『じわじわ』『じわが来る』『じわが湧く』という言葉がある。」
というのが書き出しですが、これだけ見てわかるのは、よほどの歌舞伎通のかたで
ありましょう。もちろん、当方は「じわ」とはなにかと、首をかしげて、この先を
読みすすみました。
 本日はちょうど五代目にあたる「歌舞伎座」(新歌舞伎座にあらず)が初日をむ
かえて、本日のニュースで大きく取り上げられていました。岩佐美代子さんは、
この歌舞伎座のこけらおとしの芝居を見にいかれるのでしょうか。
岩佐さんの歌舞伎観劇は、十歳のころからとありますので、骨の髄までのファンで
あるようです。
「芝居好き、教育好き、民法学者穂積重遠は、日常の茶話にも常に歌舞伎を語り、
興に乗れば随時、浄瑠璃本や脚本を読んでくれたが、昭和十一年私が十歳の春から
は年に二三度、歌舞伎座や東京劇場の、今思えば空恐ろしい、中央の一等席で、
最高の芝居を見せてくれた。」
 その当時の芝居の入場料がどのくらいのものであったかですが、この文章のなか
には、かっての興業の番付に掲載されている値段が引用されていました。
 これは昭和十三年団菊祭4月興業のものだそうです。
「一等 七円八十銭、二等 四円八十銭、三等 三円八十銭、二階席 二円
 三階席 一円 」
 今回の歌舞伎座 こけらおとし興業のチケットは、松竹のページをみますと
次のようになっていました。
「一等席  20,000円 二等席 15,000円  三階A席 6,000円 
 三階B席 4,000円」
 建物の造りが違いますことから単純な比較はできませんが、かっての三階席は
一円とありますので、これはお得という感じですね。その昔の学生たちがチケット
を購入できたのは、せいぜいがこの三階席でしょう。三階席と一等席は7.8倍の
価格差ですから、現在の一等席は、まだ割安なのかもしれません。
 長く歌舞伎を見続けているかたは、多くいらっしゃるのでしょうが、観劇の
体験を、このようにみずみずしく語ってくれるかたは、そうそういらっしゃら
ないことです。