歌舞伎のお勉強 2

 昨日に引用したところにありましたが、昭和7年には「歌舞伎を上演する劇場が、
東京に四つもあり、役者の数も、いまの三倍以上だった。」そうです。
 現代でも東京には歌舞伎を上演する劇場が四つあるではないかといわれそうです
が、この場合はもっぱら歌舞伎だけを上演するところということでしょう。
 もちろん、歌舞伎しか上演しない劇場となると、歌舞伎座となります。
 中村雅楽探偵小説全集に描かれる劇場は、歌舞伎座だけではありませんが、たと
えば、次のようにある劇場とは、どこのことであったのでしょう。
「12月は、大正座にでている一座と、名古屋のM座に行っている一座とが合同して、
木挽町の劇場で、『忠臣蔵』の通しが上演される。いまの歌舞伎界のおも立った幹部
が顔を揃えて大序から九段目まで、昼夜通して出すのである。」
 大正というのですから、これは明治座のことになるのでしょうね。木挽町の劇場と
いうのは歌舞伎座ですね。それにしても、「忠臣蔵」というのは人気演目であります
が、通しでやるとどのくらいの時間がかかるのでありましょう。なかなか上演され
ないのかと思っておりましたら、昨年の今頃に上演されたとありました。一日で観劇
するとなると、客のほうも体力が必要なようです。
「九月が近づいた、歌舞伎座では、六月に浜町の劇場にでた一座がそのまま、同じ顔
ぶれで、『忠臣蔵』の通しを出すことになった。こういう古典で、型がこまかく、
口伝がいろいろある出し物の時は、若い役者は、みんな雅楽の家に、話を聞きにゆく。
楽屋では、『千駄ヶ谷まいり』といっている。
 ほんとは、老優から教わる時は、別室にはいって、一対一で話すのが、作法になって
いるらしい。秘伝を伝授する形式が残っているのだろう。
 しかし、スコッチをのみながら、アガサ・クリスティを読みふけるといった、近代的
な生活を一面持つ雅楽は、秘密めかした話のしかたを好まず、二人三人、居合わせた者
を前において、型を語り、口伝を教える。」
 作中で探偵役をつとめる老優は、歌舞伎界の長老で、ご意見番のような存在とありま
す。そのキャラクターは、実在する幾人もの役者さんを混ぜ合わせたものだそうです。
 歌舞伎界随一の読書家なんてことをいわれた名優もいましたが、その方も雅楽さんの
人物像に投影されているのでしょうか。