中村とうようさん追悼 11

 日本の音楽ファンの(そしてミュージシャンの)ボブ・ディラン体験は、中村とうよう
というフィルターを通してであるというのが、当方の考え方です。当方よりも年長の
フォーク・シンガーで小室等さんなどは、ほぼ同時でディラン体験をしているのでは
ないかと思いますが、小室さん以外には、なかなか思いあたらないことです。
 たとえば、日本でディランに一番印象が近いと思われる吉田拓郎さんは、ディランの
変身というのをどう受け止めたかですが、吉田拓郎さんのウィキペディアには、
マチュア時代の1966年に中村とうようさんから「特別賞」をおくられたとあるのと、
雑誌には、和製 ボブ・ディランと紹介されたという記載がありました。うがった見方
をすれば、吉田拓郎さんにディランと親近性を感じたのも、とうようさんであったので
しょう。
 中村とうようさんの世界への入門書は、なんといっても「フォークからロックへ」で
ありましょう。この本を手にしてもらいたいなと思って、検索をかけてみましたら、
日本の古本屋、アマゾンのどちらにもありません。これはちょっと残念でありました。
とうようさんにとっては、最初の著作ではありませんが、1955年〜71年にかけて
とうようさんが発表した文章から、自選集の趣であります。
この「フォークからロックへ」のまえがきには、次のようにありです。
「ぼく自身の過去十数年の間に書いてきた原稿をまとめ、ポピュラー音楽とそれをとり
まく問題がどう変わってきたかをたどってみたいと思い、本書を編んでみた。だから、
ぼくのアンソロジーとしてではなく、ひとりの評論家によるポピュラー音楽発展の証言
として読んでいただければ幸いである。」 
 「ひとりの音楽評論家」ではなくて「評論家」であります。とうようさんは音楽を
通じて人と時代を語ろうとしているのでした。(吉田秀和さんのことを、いまでは
音楽評論家と呼ぶ人はいなくなっているでしょう。)
 あらためて「フォークからロックへ」の表紙は、以下のものです。探してでも読んで
見てください。