古本屋のおやぢ 6

 関口良雄さんの「昔日の客」を手にすると、上林暁の本が読みたくなります。先日の
山本善行さんのブログにも、夏葉社版「昔日の客」が手元に届いたころ、上林暁さんの
作品を読み継いでいるとありましたが、人によって、手が伸びるのが正宗白鳥であった
り、尾崎一雄野呂邦暢であったりするのでしょう。どちらにしても、「昔日の客」を
手にしますと、ここで取り上げられている作者や本などを手にしたくなります。
 当方の場合は、上林暁さんであります。上林さんは、50代で一度倒れ、60歳になった
ばかりの時に二度目脳出血となり、そのあとはほぼ寝たきりの生活となるのですから、
それ以降は病状六尺状態でありまして、創作活動が続いたのは奇跡のように思います。
 1965(昭和40)年8月に「日本経済新聞」掲載の文章に「よき話し相手」という文章
があります。(単行本未収録で、全集第15巻にあり。)
 この「よき話し相手」から引用しましょう。
「 私は四年前から脳溢血で寝てゐる。それで一度でも見舞ひにきてくれた人を見ると
 ありがたく思ふ。まして、何度も来てくれた人を見るとなほさらありがたい。
  関口良雄君は四十六、七歳。大森で古本屋をしてゐる。夜はたびたび来てくれるし、
 いつも季節の花をたくさんに持って来てくれる。
  彼はまた『上林暁文学書目』を自費出版したので知られてゐる。『上林暁文学書目』
 といふのは、私の著書五十冊を網羅し、百三十部限定版である。それはたいへんに
 こったもので、大半は私のファンに寄贈した。また私の著書の大半を近代文学館に寄付
 した。
  彼は私の文学のファンの声優臼井正明氏とは大の仲よしで、私の家にもいっしょに
 来てくれたころがあるし、いっしょに旅行したり、酒もいっしょに飲んだりする。ある
 とき、酒を飲みながら十時ころから口論をはじめて、二時間ほど休んでまた続け、翌朝
 十時ごろまでけんかを続けたといふ。関口君はこれを私に報告した。二人の口論の原因
 は私の文学にあると言った。」
 臼井正明さんという声優さんは、当方が小学校から中学にかけて、アメリカのドラマの
吹き替えで活躍していた人です。男前の役者の声をしていましたが、名前は見覚えがあり
ますが、声は耳に残っておりません。たぶん、代表作は「サンセット77」でしょうが、
主題歌は口ずさむことができるのでありますが、臼井さんが吹き替えていたのは、主人公
でありまして、演じていたのは著名なバイオリニストの息子さんでした。臼井さんは、
奥様も著名な役者さんとありましたが、最近の方は、ほとんどご存じないでしょう。
 今でも役者さんとか声優さんには、とんでもない読書家(蔵書家)の方がいるので
しょうが、当方は、最近の事情に暗いので、これを話題にすることができません。