筑摩書房についての本 5

 筑摩書房についての本を話題にしているのですが、家にあるのかないのかわからな
くなっていた臼井吉見さんの「蛙のうた」を注文していましたら、本日に届きました。
臼井さんの本にも、柏原さんの本にも登場し、和田芳恵さんによる正史「筑摩書房
三十年」でも大きくページをさかれているのが、次のものであります。
 ここでは「筑摩書房の三十年」からの引用です。
上林暁に『嶺光書房』という短編小説がある。昭和二十一年一月十二日に書き上げ
られたこの小説は、一人の私小説作家が捉えた筑摩書房の戦災史とも見られる。」
 このようにありまして、これ以下、小説では仮名となっている人物を実名におきかえ
て、この作品を紹介しています。
 上林暁全集でひっぱりだしてきて「嶺光書房」を読むのでもよろしいのですが、これ
でないものは、なにかないかと思っていましたら、ほとんどバラバラになってしまい
そうな「新選 現代日本文学全集 8 上林暁 集」1959年4月 筑摩書房刊がでてい
ました。

 筑摩の屋台を支えたのは、まずは「現代日本文学全集」でありますが、これは
「新選」とありますので、一番最初に出版されたものとは違うようです。上林さんを
一冊にまとめた文学全集なんて、あまりないのではないかと思われるのですが、これ
は全集の資料をみましたらわかりますでしょう。
 筑摩の全集といえば、三段組みでありまして、ページいっぱいに活字が印刷されて
います。上林さんの初期の作品をとりあえず読んでみたいという方にはおすすめ?の
一冊であるのかもしれません。
 奥様が入院してその支払いに事欠く上林さんが、筑摩へと印税の前借りにいくくだり
を引用です。
「私が出版文化協会に嶺光書房を訪ねて行ったのは、その月も改まって間もなくのこと
であった。妻の入院費に窮して、月末に支払ひが出来なかったので、月を越して印税の
前借りに行くのだった。嶺光書房も度々の災難なので、印税の前借りをするのは遠慮し
たかったけれど、その他には手立てもないので、事情止むを得なかった。」
 昭和21年1月の小説でありますが、この時代は出版社も作家も貧しかったことです。