これから読む本5

 小説家 佐藤正午さんのことを取り上げるのに、小説のことはほとんど話題にせず、
光文社文庫のエッセイ集に終始するのは、いかがなものかであります。
そういえば、本日の朝にNHKBS ブックレビューをみておりましたら、この番組の
キャスターのお一人である中江有里さんが、今年の収穫として佐藤正午さんの
「身の上話」をあげておられました。ちらっとコメントを聞いていたのですが、
これこそ「これから読む本」となるのかもしれません。
 それはさておき、佐藤正午さんのエッセイ集「ありのすさび」に寄せた編集者
坂本政謙さんの解説からであります。
 編集者と作家は仕事でつきあうのでありますが、岩波書店に勤務する坂本さんの
場合は、普通のしかけでは自社から佐藤正午さんの作品をだすことなど考えにくい
ことであったでしょう。それだけに企画が通った時には、失敗できないという
プレッシヤーかかったはずです。大きなダンボール一杯にはいっている掲載ページ
の切り取りを見た時には、宝の山にはいった感じであったでしょう。
 しかしその宝の山は、非常に手のかかるものであったのでした。
「 僕はエッセイが入っていた紙袋を開けたときの驚きを忘れることはできません。
僕がとりたてて几帳面だとは思いませんが、ページを切りとるには、やはりナイフは
使うだろう。切りとったものはファイルに入れるなりして、整理しておくようにする
だろう。他人のものならいざしらず、自分の作品じゃないか。しかも初出誌や発行
年月日といった基本的なデータさえなにかが欠けていて、ページの端にそろって
きちんとメモされているものはほとんどないのです。
『だってさ、めんどくさい』
 僕の問いかけに、正午さんはこう答えてくれました。・・・
 この自然体というか、鷹揚なあり方というものと、書くことに対する厳密な姿勢との
ギャップが、正午さんのエッセイの、ある種のおかしみをかもしだしているのかも
しれません。」
 ダンボール一つにはいっている無造作に切りとられた掲載雑誌のページから、
発表の雑誌と発表月を特定していくのでありますから、考えると気の遠くなる
ようなことであります。
 こうした努力に対して、佐藤正午さんのあとがきです。
「 おしまいに、担当の編集者である坂本君に感謝する。
 小説家が自分の本のあとがきで、編集者に感謝すると書くことは簡単なのだが、
そしてきっとそう書かれた当人は面はゆいに違いないのだが、それでも敢えて、
今回の彼の仕事 一千枚を超える原稿を読み、読み返して一定の編集方針のもとに
小説家の百万年を一冊の本にまとめあげた仕事に対して、ひさしぶりにマジで
感謝する。」