誤解しているかな 2

 佐藤正午さんの「きみは誤解している」集英社文庫についている編集者坂本政謙さ
んの解説を話題とするのでありました。
 「きみは誤解している」は2000年に岩波から刊行されて、それが2003年に集英社
庫に入り、いまは2012年にでた小学館文庫版が流通しているようです。
当然のことのように岩波版には、坂本さんの解説はついてなく、小学館文庫版は集英
社文庫を引き継いで坂本さんの解説を収録しています。
 坂本さんの解説は、佐藤正午さんの岩波版への付録に呼応するところがあって、こ
れが興味深いので、佐藤さんの付録というのとセットで読まれるのがいいですよね。
 「きみは誤解している」の佐藤さんの付録という文章から引用であります。
「『きみは誤解している』というタイトルの本を作るためにはどうしても新たに短編
を一本、それとあとがきを書いていただくことになります。どうでしょう佐藤さん、
ふたつの条件を呑んでいただけますか?
 『きみは誤解している』は競輪を題材にした短篇集である。・・
 競輪用語が、競輪になじみの内読者にはわかりづらいのではないか、わかりづらさ
を少しでもやわられるために用語解説を付録としてつけたほうが良くはないか、とい
うのが坂本君の考えであり、僕に対する要望であり、同時にこの本を刊行するための
条件の一つでもあった。」
 佐藤さんの付録とは、普通のあとがきと競輪用語解説があわさったものとなるので
すが、競輪用語のなかには「ズブズブ」なんていう言葉があって、最近国会でも話題
になった「ズブズブ」というのは、競輪の世界では「ずぶりと刺す」の意味だという
ことを知ることができました。
 もっとも、坂本さんの解説を眼にして面白がるのは、この競輪用語解説に関してで
はなく、佐藤さんが書いた普通のあとがきについてのところです。
 坂本さんは、二十歳の頃に佐藤正午さんの「王様の結婚」という作品に出会って魅
了され、佐藤さんの新作を待ち望むようになるのですが、編集者となって、なんとか
作品を書いてもらいたいと、佐世保まで佐藤さんに会いにいくことになります。
 坂本さんの解説からの引用です。
「編集者として実際に正午さんと会うことになった経緯は、本書の『付録』に書かれ
ています。が、残念ながら、そこに書かれていることは必ずしも事実ではありません。
九割方、ウソです。小説家がどのようにウソをつくか。そのことを少し、お話しま
しょう。
 まずは実害のあったものから。」
 このあとに、佐藤正午さんが付録に書いているウソ(事実と違うこと)についての
指摘があるのですが、これを読み較べていくと、小説家というのは、話を面白くする
ためにウソをつくのが仕事であるという単純なことに気づかされるのです。
 そういえば、佐藤正午さんには「書くインタビュー」とか、佐藤正午さんが突然旅
行にでてしまったので、代わりにエッセイを書きましたなんて本当のウソがあるもの
ね。
 佐藤正午さんのものを読む時には、心して読まなくてはいけないようです。小説の
世界で遊ぶとはウソの話を楽しむのですから、難しく考えないのがいいのか。

きみは誤解している (小学館文庫)

きみは誤解している (小学館文庫)