「本の雑誌」301号から

 「本の雑誌」創刊301号には、「本の雑誌が三百号で紹介した三百冊」という
特集があります。どういう基準であるのかは、ともかくとして、各号の紹介から
一冊を掲載するというのは、たいへんな作業であったようです。
 昨日はノアールの作家 馳星周が本名である「坂東齢人」時代に紹介したもの
を引用したのですが、坂東さんらしからぬ本が、この特集に残っているのであり
ます。昨日は、「きらきらひかる」でありましたが、三百冊のなかに残っている
坂東さんの紹介本と文章は、次のようなものでした。

 仁川高丸「微熱狼少女」 集英社
 センシティブな女子高生とエキゾチックな女教師とのラブストリーなのだが、
これがそれなりにエッチで、とおっても面白い。ヒロインがレズという存在を
嫌悪しつつも、徐々に女教師にひかれていく自分を発見する過程は、レズだの
なんだのを通り越して、こちらがせつなくなるほどのリアリティをもって迫って
くるのだ。

 盛田隆二サウダージ」 中央公論社
 やるせなくも美しい。今の東京を描いた佳品。

 氷室冴子「海が聞こえる」徳間書店
 この作品が心地好いのは、高知という街の温かさと、ヒロイン里伽子の小気味
よいわがままっぷりにあるのだが、今、目の前に里伽子のような女性が現れても
めんどうくせいだろうなとおもうのだが、高校生の自分なら確実にほれていた
だろうと思う。

 ずいぶんと、センチメントな本があがっていることです。坂東さんが本質的に
このような作品が好きであるということか、それともいまは、まったく違った作品
世界に身をおいている坂東さんの知られざる一面をクローズアップしたもので
しょうか。
 最後の氷室さんは、坂東さんと同じ北海道出身でありました。最近にがんのために
なくなったのでした。小生は、ジュニア小説はほとんど読んでいないのですが、
彼女が雑誌「ちくま」に連載のエッセイは、楽しんで読んでいた記憶がありました。
まだ、若かったのに、惜しいことであります。