本日の新聞夕刊には「惜別」欄がありまして、ここに坪内祐三さんがとり
あげられていました。見出しには「雑誌愛し育まれた『雑文家』」とあります。
文筆家よりも、尊敬をこめて「雑文家」でありますね。この惜別文を記している
のは、中島鉄郎さんという記者さんであります。
「親しくしていた90年代中ごろ、朝日新聞社のある雑誌の新装刊時にも快く
新連載を引き受けてくれた。だが、できた雑誌を送ると『どうしてこんなにつま
らないの』と怒った。誌面のバランスや行儀良さを感じ、雑誌なのに肝心の
『雑多さ』がないよ、と訴えたかったのだ。」
なるほどこの時の雑誌というのは「論座」かなにかでしょうが、当方が買い
続けることにならなかったのは、「雑多さ」がなかったからか。
坪内さんが目指した雑誌は「enn-taxi」というのが、一つのモデルであった
のでしょう。あとは、「本の雑誌」も好きであったはずであります。
ということで、誌名に雑誌と冠している「本の雑誌」3月号から話題をいただき
であります。
今月の巻末には「小林信彦ならこの十冊を読め!」が掲載されています。記して
いるのは三橋暁さんというミステリー系の評論家さんです。
この十冊選びのタイトルには読み物作家とありますことから、ここで選ぶのは主に
小説となります。
当方は、偏った読者でありまして、小林信彦さんはコラムニスト、または演芸批評
家として認識でありまして、当方のなかで小説家 小林信彦の存在は小さいので
ありますよ。(同様にして池澤夏樹さんも、黒川創さんについても小説はほとんど
なじみがない。かろうじて辻原登さんだけが、書評と小説のどちらも目にしています。)
三橋さんがあげている十冊の小説のうち、読んだことがあるのは二つか三つで
あり。もちろん、その少ない一冊に「夢の砦」が入っていました。
三橋さんは、もともとはノンフィクションも含めて選んでみようと思ったようですが、
まるでこうなると絞り込みに苦戦してしまって、それであっさりと対象を小説だけに
したとあります。
それでもノンフィクションについても、十冊ほど選んでいるのですが、これが高額
本が多くて、当方のように文庫本で読んでいる人間には、縁がないことでありますね。
絶対に外せないとして、「日本の喜劇人」があがっており、これはありがたしで文庫
本で親しむことができました。
昨年に「生還」という本を発表して、無事に三途の川の手前から戻ってきた
小林さんと、そのままわたってしまった坪内さん。生に対する執着心の違いであり
ましょうか。