「本の雑誌」創刊301号

 椎名誠さんと目黒考二さんがはじめた「本の雑誌」が、今のように月刊に
なったのは、いつのことでありましたでしょうか。
 小生が最初に、この雑誌を手にしたのも忘れているのですが、そのような
雑誌があるということが話題になっていても、なかなか手に出来なかったことを
覚えています。創刊は76年4月とありますが、最初は不定期刊行で、ほとんど
幻の雑誌でありました。
 今回の301号には、これまで雑誌でとりあげた本のなかから各号1冊を紹介
しているのですが、これがずっと見ても、この紹介を読んで、本を購入したり、
借りて読んだという記憶がまるでないのに驚きました。小生には、ブックレビュー
としての役割をはたしていないかのようであります。 
( これは、たぶん北上次郎さんの紹介する本と、小生の相性が悪いというか、
北上さんがおすすめのものは、あえて避けるようにしてせいかもしれません。)
 それなのに、小生はたぶん270冊以上「本の雑誌」を買い続けているので
あります。一冊もすてていないはずなのですが、どこにどうしてあるのやら、
ほとんど確認することができないのは残念。
 「本の雑誌」にのっていたすべての文章で一番印象に残っていて、こんなのが
あったといって知人に知らせたのは、ちょうど黒沢明監督の「影武者」が撮影された
あとかに、「黒沢ファンの老人」について書いた「森の中の映画館」(このような
タイトルであったかと思いますが、ちょっと違うかな。)
小生の住んでいた町の近くで、黒沢の映画のロケがあって、それに関わった黒沢
ファンの老人が主人公でありましたが、小生の知っている風景が出てきたりして、
ずいぶんとリアルに伝わってきたのであります。
 無署名の文章でありまして、このようにこの地のことを書くことができるのは
どこのだれでありましょうと、不思議に思ったのでした。
 ずいぶんとあとになって、「馳星周」さんという筆名でデビューした作家が、
このまちにゆかりの人で、本名で「本の雑誌」のライターをしていたと知って、
あの文章を書いたのは、この人であったのかと疑問が氷解したのでありました。
 この301号に掲載されている坂東齢人の一冊。(91年の98号から)
「 読む終えたあとしっかと抱きしめてみたくなる本というのはメッタにないが
(ぼくがやると不気味だし)江國香織きらきらひかる』新潮社を読み終えた
 直後は、思わずそうしたうえに頬ずりまでしてしまいそうになってしまった。」

 この文章のときには、どのような風貌であったのかわかりませんが、ノワール
作家デビューしてからの風貌で、「きらきらひかる」に頬ずりしていましたら、
そうとうに気持が悪いことであります。