楓をかえでと読む

 岩波の「図書」12月号の「広辞苑」特集をみておりましたら、「広辞苑
植物と挿し絵」という文章がありました。筆者は小野幹雄さんという植物学者で、
これまで広辞苑の植物部門を担当していた方だそうです。
 この文章には、次のようにあります。
「 生物種の記述はいくら正確にかいても(あるいは正確であればあるほど)、
 図なしにはその種類の形状をイメージすることは難しい。明治時代以前の
 日本の植物分類学、つまり本草学では外国、おもに中国の文献から、形態の
 記載だけで植物の形状を類推し、それに当てはまて日本にある植物の名前を
 決めることが主たる仕事であった。もちろん、その文献に図や写真などは
 なく、『葉は対生』とか『花は五弁の白花』などといった文章の記述だけ
 から、この植物に間違いないと断定し、中国でも呼び名を日本のものにあてて
 いたのである。だから今からみれば、まったくの見当違いで漢名をあてられた
 植物も数多くあった。」

 こうしたまったく見当違いな漢名をあてられた実例として、「楓」をかえでと
当てたのがあるというます。
 「 なぜカエデに楓を当ててしまったかというとたぶん、”葉は単葉で五つに
 割れ、秋に紅葉する”といったたぐいの記述が中国のフウの記述にあった
 からではなかろうか。もし、その文献に写真があったり、中国にその植物を
 見比べにいったりできたら、このような間違いはおころらなかったろう。
  一度間違って同定され、普及されてしまうと、いつまでも『楓=かえで』の
 誤解は固定してしまう。」

 中国の楓(フウ)というのは、日本でいうところのかえでとは違うのであると
いわれても、植物にまったく弱い小生には、たいした違いには思えないので
ありました。
ことばで聞いて、それをイメージして正確に形状をイメージするという作業が
かかせないのですが、こうした作業では「牧野富太郎博士は天才的だった」と
あります。
 「 博士の場合漢書だけでなく、英語、ラテン語でかかれた植物学の記載からも、
 的確に植物を想定し、日本でみつけた種類を正確にあてはめていった。」
 
 「牧野博士は、前述の楓について『邦人能クカヘデに楓の字を用うるは非なり』と
 あっさりかいておられる。」ということで、小野さんの文章を終わるのですが、
 楓とかえでは違うというとき、両方の違いはおわかりでしょうか。なるほど、
広辞苑をみてみましたら、楓はフウとなっていて、カエデとは別種とありましたが、
このマンサク科の落葉喬木というのは、どういうものでありましょうか。