晶文社図書目録8

植草内容見本

 晶文社 「植草甚一スクラップ・ブック」は全四十一巻と
なります。植草甚一さんこそ「ワンダーランド」を通じて、
晶文社のイメージをかえた人であり、その記念碑的な出版物
が、この「スクラップ・ブック」となります。
 この「スクラップ・ブック」の内容見本は、実に魅力的で、植草さんの
魅力を伝えようとする編集者たちの心意気がよく伝わってくるものです。
岩波の全集であれば編集とか、監修とかいって大御所が名前をつらねるのであります
が、このスクラップ・ブックには、そんなややこしいものはなしであります。
「 植草さんはいつも歩く人だった、このスクラップ・ブックは、植草さんの眼と耳と
が探しあてたありとあらゆるものを網羅した、生きたエンサイクロペディアである。」
( 晶文社 図書目録のコピーから。)
 とはいっても、このスクラップ・ブックの内容見本には、以下のそうそうたる人々
が推薦文を寄せています。
 池波正太郎小林信彦淀川長治篠田一士油井正一
76年の内容見本ですが、ここに名前があがっている人で、現在も健在なのは、小林信彦
さん、ただお一人となっています。池波さんは小説家、小林さんは説明省略、淀川さん
は映画評論家、篠田さんは文芸批評家、一番有名でないだろうと思われる油井さんは、
ジャズ評論家であります。ここでは、油井さんの推薦文を、引用しましょう。
「植草さんは、国宝的雑学博士である。映画、ジャズ、近代文学、イラストレーション
すべての分野での一流だ。こうした今世紀の文化は密接に関連し合っているのに、専門
家同志の交流は極めて薄い、たとえば、アメリカの現代文学を翻訳で読むと、訳者が
ジャズのことを全く知らないために、とんでもない誤訳をしている個所に何度か苦笑を
禁じ得ないことがある。一方ジャズメンが小説からとった凝った曲名をつけたりすると、
こちらにとってはチンプンカンプンだ。植草さんの業績は、花粉を運ぶ虫のように、
最も新しい知識を右から左へ、左から右へと運び続けた点にある。」
 油井正一さんなども国宝的であったと思います。あとは野口久光さんなどもすごい人
でありました。しかし、このお二人は、植草さんのように若い人の心をつかむことは
できなかったようであります。
 上に引用した油井さんの文章は、次のように続きます。
「 植草さんの話題は常にナウで、目の前に新しい現象が起こると、好奇心を発揮して
徹底的に追及する方だから、この全集は1930から70年代に及ぶナウな知識の集大成と
して、後世を裨益するものとなろう。」
 このスクラップ・ブックの内容見本は、植草ワンダーランドとなっています。
判然とはしませんが、掲載の写真はこの内容見本の見開きですが、小野耕世片岡義男
さんが文章を寄せて、イラストは河村要助さんであります。
 日本の内容見本のなかでも燦然と輝く傑作であります。