本日に新潮「波」が届きました。早速にパラパラとみていましたら、
川本三郎さんが書いていまして、そこには「荷風の昭和」のあとに読みたく
なる三冊とありました。
その文章の書き出しは次のものです。
「本誌八月号で2018年から連載をはじめた『荷風の昭和』をなんとか
無事に終えることが出来た。軍国主義が強まってゆき、日中戦争を経て
太平洋戦争に至り、その破局による戦後の混乱期を老作家はどう生きたか。
その生を辿ることは今年八十歳になった人間には興味深いものがあった。」
川本さんのほとんどライフワークのようなものになった「荷風の昭和」です
が、あまりに長いので、単行本になったら読むのが大変とわかっているので
すから、連載の時にすこしでも読んでおけばよかたのになと思うことです。
それじゃ、どんな終わり方をしたのかなと、「波」八月号をひっぱりだして
きて見ることにです。最終回は「最後の日々」というタイトルになっています。
いきなり、次のように書かれています。
「晩年の荷風と親しかった編集者といえば、中央公論社の高梨茂だろう。」
荷風全集は、現在岩波から刊行となっているのですが、荷風の作品でいう
と「濹東綺譚」だけしか岩波からはでていなくて、どちらかというと戦後は
中央公論社の世話になっていることが多く、その担当編集者が高梨茂さん
ということになります。
高梨さんといえば、「榛地和装本」で社内装幀者として、「とくに高梨茂氏
の造本感覚と技術管理への執念深さに、私は深い尊敬の念をもった。」と
書かれている人でありました。
川本さんの書くところでは、荷風が高梨さんのことを信頼したのは、「江戸
時代の文芸に造詣が深かったこと」によるとあります。そして、谷沢永一の文
を引いて、次のように書いています。
「高梨茂の仕事として特筆すべきは、近世文芸の研究者である森銑三の
『森銑三著作集』全三十巻、三田村鳶魚の『鳶魚江戸文庫』全三十八巻、
『中村幸彦著述集』全十五巻の刊行であろう。」
森銑三著作集は普及版が刊行されて、当方のような素人にも手に取りやす
くなっていました。いまも端本で求めたものが何冊が書棚にありです。
そのように付き合いの深かった中央公論社ではなく、どうして岩波なのかと
思いましたら、最終回に書かれていまして、荷風没後の出来事でありますが、
これには「晩年の荷風を献身的に支えた高梨茂の無念はいかばかりだった
ろう。」と川本さんも書いています。
中央公論社版「荷風全集」とか、「断腸亭日乗」を見てみたいと思う人は
少なくないはずですが、これはもう無理でありましょう。