もう一冊 新書判を

 借りた新書といえば、あと一冊ありました。

 坪内祐三さんの「人声天語」となります。亡くなったあとに最後の「人声天

語」が刊行となって、それは借りて目を通すことができたのですが、当方が

このシリーズをまったく読んでいなかったので、それに先立って刊行された

「人声天語」を読みなさいといって、貸してくれたのであります。

 最新の「人声天語」刊行の時にも記しましたが、当方の巡回する新刊本屋に

は文春新書の入荷が少なくて、坪内さんのものなどは、ほとんど目にしたこと

がありません。そんなわけで「人声天語」をありがたく読ませてもらうことに

なりです。

人声天語 (文春新書)

人声天語 (文春新書)

 

  「人声天語」の一冊目は、2009年刊行で収録されているのは2003年から

2008年のものとなっています。この時期はちょうど坪内さんが何度目かの

相撲ブームが再燃して、後半で相撲が話題となっています。この時期の当方

はほとんど相撲に関心を失っていたので、これらのコラムを見ても、なにも

思わなかったでしょう。

 書店話題とか出版関連は、やはり目がいくことでありますが、東京の有名

ではあるがなじみのない書店が閉店しても、これも当方の知らない世界のこ

とでした。

 これはと思ったいくつかのコラムのなかで、一番興味深いものは「幻の

本」というタイトルのものでした。

 在野の出版文化史家Fさんから原稿依頼があって、それは「博文館とその

時代」という論集に収録されるものだそうで、その頃に博文館に強い関心を

もっていた坪内さんは、依頼してきたFさんの「雑誌文化史」の掘り起こし

作業にリスペクトの気持ちを持っていたので、これを喜んで引き受けたとの

ことです。

 この「博文館とその時代」という本は、出版文化史家FさんとOさんが編者

をつとめて、Iさんが代表を務める版元から刊行の運びとなって、そろそろ

印刷にかかろうかというところで、Iさんと連絡がとれなくなってしまったの

だそうです。これは1995年のことで、坪内さんによるこのコラムは2007年

5月号掲載ですので、十数年が経過していました。

「この論集の執筆者の一人である紀田順一郎さんの話では、I氏の事務所はも

ぬけの殻で、I氏と共にすべての原稿や組版の行方も杳として知れないという。

 あれからさらに十年。この博文館本は遂に幻と消えてしまったのだろうか。」

 この論集の編者のお二人はイニシャルでありますが、Fさんは雑誌文化史の

掘り起こしで著名な方ですから、これはわかりますが、もうお一人の編者O氏

はどなたなのでしょう。姿を消したI氏さんはまったくわかりません。

 それにしても原稿とか組版などは、借金の方で押さえられたのでしょうが、

その後に坪内さん以外に、これについて話題としている人はいないのかな。