毎日読書欄はよろし

 毎日新聞13日日曜日の読書欄(今週の本棚)は、トップに黒川創さんの

鶴見俊輔伝」がおかれ(評者は加藤陽子さん)、その隣には福島紀幸さん

の「ぼくの伯父さん 長谷川四郎物語」がのっていました(評者は堀江敏幸

さん)。

 当方は毎日新聞は、数日遅れて見せてもらっているのですが、このような

ものが並んで掲載されるのをみますと、毎日読書欄は別格という感を強くし

ます。

ぼくの伯父さん: 長谷川四郎物語

鶴見俊輔伝

 鶴見俊輔さんの本については、あちらこちらで取り上げられそうであります

が、長谷川四郎さんの本となると、こちらを書評できる人といえば、ほとんど

思いつかないことであります。もちろん、池内紀さん、池澤夏樹さん、津野海

太郎さんなどをのぞいてのことですが。

 長谷川四郎さんは、読まれることが少なくって、論じられることはもっと少な

いのでありますが、そうした数少ないものの一つを書いているのが、堀江敏幸

さんでありました。(堀江さんの「書かれる手」に収録されています。)

 ということからは、毎日新聞には堀江さんがいたから、この本を取り上げる

ことができたといえるのかもしれません。

 堀江さんの評から印象的なところをすこし引用です。

「ある時期の長谷川四郎の近くにいて、声や表情までもつぶさに観察していた

人だから、書こうと思えば貴重な逸話をいくらでも並べることができただろう。

 しかし本書は禁欲的だ。大半は四郎の言葉を文章を切り貼りした『コピペ』

だという。」 

 この書評の見出しには「禁欲的に描いた『共作』」とありますが、まさに共作

というのは、長谷川四郎さんが身をおいた文学運動の大きなテーマの一つで

はないですか。

 福島紀幸さんの「ぼくの伯父さん」から、そこのところを引用です。

「記録芸術の会に参加し、一時、月刊『現代芸術』の編集実務にかかわった

小沢信男は書いている。

『会の規約に共同制作の文字はなかった。だが、その勧めはいきなりありまし

た。花田清輝のゆくところ、生涯にわたってこれがあった。

 共同制作の提唱に、居あわせる身になってみると、周辺はおおかた泰然自若

ないし馬耳東風にみえました。とりわけ花田清輝の先輩同輩の世代におかれて

は。後進のわれらの世代のほうが、好奇心からとびついた。』」

 福島紀幸さんは、大学を卒業した後、「新日本文学」編集に関わるのでありま

すが、小沢信男さんとはそれからの付き合いでありまして、福島さんもこのような

文学運動のなかで裏方として生きてきたのでありました。

 サンデー毎日1月20日号の「今こそ読みたい」というコラムは、池内紀さんが

「ぼくの伯父さん 長谷川四郎伝」を取り上げていて、これも本当にうれしいこと

であります。池内さんは、この本の帯に推薦文を寄せているのですが、この文章も

ぜひとも目を通してほしいものです。