本日は山猫忌

 本日は長谷川四郎さんの祥月命日で、当方は勝手にこれを「山猫忌」

といって、四郎さんを偲んでおります。

四郎さんが亡くなられたのは1987年のことですから、亡くなってすでに

33年でありますか。当時読者としては若いほうでありました当方もあとす

こしで七十歳であります。四郎さんの薫陶を受けられた方はほとんどが

八十代となるのではないでしょうか。

 当方はまだまだ元気であるはずですから、あと何年かは「山猫忌」を

このブログ上でできそうであります。

 例年、山猫忌にあわせて、その前年から四郎さん関連の著作などを話

題にすることにしていたのですが、なんともはや面目のないことに、昨年は

どうしたことか(その前々日くらいに関西旅行から戻ったのが一番の原因

でしょうね。)、山猫忌を話題にすることを失念しておりました。(気がついた

ときには、すでに遅しです。)

 例年話題に苦労したりするのに、昨年は長年長谷川四郎さんの編集者

として有名な福島紀幸さんの労作(にして大作)である「ぼくの伯父さん」

が刊行されていたというのにです。

ぼくの伯父さん: 長谷川四郎物語

ぼくの伯父さん: 長谷川四郎物語

 

  福島さんによる長谷川四郎物語は、福島さん自らが編集して、解説を書い

晶文社版「長谷川四郎全集」の解説を基本に、大幅に加筆したものです。

四郎全集は、四郎さんが生きているうちに完結し、亡くなってから補遺として

出されたのが「山猫の遺言」という本になります。

 「山猫」というのは、四郎さんが晩年の単行本などに使っていた言葉であ

りまして、それを受けて福島さんは四郎さん没後にまとめた補遺に「山猫の

遺言」とつけたのであります。

 このところ本屋さんにいくと目にはいる「山猫」は、湊かなえさんの「山猫

珈琲」という本ですが、ひょっとして湊さんも長谷川四郎さんのファンで、それ

で「山猫珈琲」とつけているのかなと思い、本屋さんで手にしてみましたら、

これは自分の好きな「山、猫、珈琲」をつなげたものなのだそうです。これは

残念でした。(それと最近良く聞いているガールグループBiSHさんの歌にも

「弱音ばかり その山猫」という歌詞があるのですが、これももちろん関係は

なしであります。)

 最近になって、意外な感じで長谷川四郎さんの作品を読んでいたとあげ

ている方がいらして、これに触発されて、当方もこの作品を読むことになりで

す。

tobiranorabbit.hatenablog.com 扉野良人さんのブログです。上に貼り付けたのですが、扉野さんが読んで

いたのは四郎さんの「古本屋」という作品になります。

四郎さんは、1950(昭和25)年2月にシベリア抑留から生還するのですが、

それから発表したシベリアものが大変な評判になるわけです。この作品は、

ほとんど苦労することもなしに出来上がったのですが、問題はそのあとで、

自分のスタイルを確立するために、ひどく苦労することになります。

 この作品が書かれた頃ことを、福島紀幸さんは、次のように書いています。

「(作家の中で)戦争の影、内奥のおもい、強迫観念 それらが過去のある

時点に生じて現在にいたるまでわがかまりつづけているからには、それを表

現するには過去と現在をべつべつの画布にではなく、一枚の画布のうえに

重ねて描いてみるしかないのではないか。

 そうしたおもいから、過去と現在とを同時に描き、眺めるというやりかたで

『遠近法』を書いた。」 

 福島さんの「ぼくの伯父さん」を読んで、これは「遠近法」に収録の連作

を読まなくてはいけないなと思っていたのですが、今回、扉野さんがこの中

の「古本屋」(初出の時のタイトルは「陳述」となります。)に言及しているお

かげで、背中をおされることになりました。 

 この時代に書かれたものは、決して読むやすいものではありませんので、

ちょっとゆっくりと読んでみることにしましょう。