誤解しているかな

 佐藤正午さんの「きみは誤解している」を手にしています。元版は岩波からでたも
のですが、岩波の編集者 坂本政謙さんが最初に担当した一冊となりです。
 先日に、これの文庫本を確保したのですが、先日も記しましたとおり、目的は坂本
さんによる解説を読みたいものですから、解説が掲載されている文庫本としました。
ブックオフへといきますと、佐藤正午さんの文庫本はそこそこあるのですが、ある程
度有名な小説が中心で、どこへいっても同じようなタイトルしか見かけることはあり
ません。
 「きみは誤解している」は競輪というギャンブルスポーツを巡る人間模様を描いた
連作集です。こんなに競輪にはまって、車券を買っていたら、この先はろくなことに
ならないなと思うような人がたくさんでてきます。
 当方はギャンブルをまったくしませんので、これら作品の登場人物になる可能性は
ほとんどなしでありますね。
 佐藤正午さんの「side B」という競輪エッセイ集には、次のようなくだりがありで
す。ちなみに、このエッセイのタイトルは「学生食堂のテレビで見た男」となります。
「1970年代の半ばから後半にかけて、僕は大学生として札幌に住んでいた。
 なにしろ本ばかり読んでいる学生だった。本といっても教科書の類ではなく小説で
ある。小遣い稼ぎにアルバイトをする以外はたいてい小説を読んでいた。・・・
 他にすることがないのか?と現在の僕なら言いたいくらいに昔の僕は小説を読んで
いた。たぶん他にすることはなかったんじゃないかと思う。
 だが当時を振り返って、いま小説を書いている自分としては、それでいいんだ、と
二十歳そこそこの自分に声をかけたい気もする。いまこうやって競輪のエッセイを書
いている自分としては、小説を読むのもいいけどたまには函館競輪の札幌場外にでも
出かけたらどうだ?と忠告してやりたいところだが、実を言えば果たしてそのころ札
幌に場外車券売場があったのかどうかさえ記憶していない。そのくらい僕は競輪とは
無縁な毎日を送っていたのだ。」
 ずいぶんと長々と引用をしましたが、「函館競輪の札幌場外」とあるのに反応をし
ました。1970年代後半に、この売り場があったかどうかは知りませんが、とうほうは、
年に数回は、この場外の近くに足を運んでいた時期がありました。さっぽろは薄野
いうところに菩提寺がありまして、そこにお盆、お彼岸というとお参りに通っていた
のです。車に両親をのっけていったとき、一番近い駐車場は函館競輪場外売り場の隣
にありまして、その駐車場は場外で車券を購入したら駐車代金が割引される契約駐車
場でした。
 当方が競輪ファンの人と一番接近したのは、この時でありましたでしょう。駐車場
代金を節約するために、場外に立ち寄って車券を購入したといえば、話は面白くなる
のですが、そんなことにはなりませんでした。
  それはさて「学生食堂のテレビで見た男」に戻ります。
「1970年代後半のある夜、NHKが放送したテレビ番組だ。二十歳そこそこの競輪選手を
扱ったドキュメンタリーで、野呂邦暢という作家がインタビューアーをつとめた。
 競輪とはまったく関係のない話だが、野呂邦暢は僕にとって大切な作家である。
小説を書き出す直接のきっかけになった作家だと言ってもいい。・・行きつけの学生
食堂で偶然、作家と競輪選手という異色の組み合わせのテレビ番組を目にしたとき、
僕の関心は当然ながら作家のほうにあった。」
 「競輪とはまったく関係ない話」とことわりがありますが、これが掲載されたのは、
「日刊プロスポーツ」1997年6月25日号であります。
 このエッセイにでてくる競輪選手は、中野浩一さんでありました。こんな文章を読む
ことができるのであれば「日刊プロスポーツ」を購読してみようかな、なんてことには
ならないですね。

side B (小学館文庫)

side B (小学館文庫)