最近買った本など 9

 最近買った本などといって、結局は深沢七郎さんの「流浪の手記」を話題としていま
す。深沢さんの小説は、べつに考えに考え抜いてしかけているというのではないと思う
のですが、不思議なほど重層的になっています。当方のように、脇道にはいってしまっ
て、そこから抜け出ることができなくなったりすることもあるようです。
 まあこれは当方が、深沢さんが北海道にどのくらい滞在したかとか、どこの町へと
いっていたのかということに関心があって、それへの手がかりとなる言葉ばかりをさが
しているからでありましょう。
 この「流浪の手記」は、自分が発表した小説によって事件を引き起こし、死者をだし
てしまった深沢さんが、死に場所をもとめるかのように北海道にわたり、北海道の土地
に魅せられて生きて行こうと気持ちになっていくという話ですが、死に場所をもとめて
いるときには警察官が同行者でありましたが、苫小牧でのことをきっかけに一人で流浪
することにし、そうしていった石狩浜で、札幌のチンピラにいちゃんと出あったことで、
かれを道案内にして「心の底から苦しむ」から抜け出ることになったわけです。
 すくなくともチンピラにいちゃんとの出会い以降は、深沢さんは死から遠ざかって
いくことができたようです。
「流浪の手記」に書かれているのは、北海道の6月から8月末まででありますが、北海道
に滞在したのは、もうすこし長いのだろうと思います。6月末ころに札幌にはいって、
それからほぼ二ヶ月は札幌にいたようであります。
 札幌からは根室にいくといってむかうのですが、これからどこにいったのかは、
記されていません。
 それにしても、根室の農家で飲ませてもらったのが「イロヒメの水」とあります。
この「イロヒメ」というのがなんのことであるかわかりませんでした。
 それで検索をかけましたら、これはその当時にあった「造り酒屋『色媛』が使って
いた湧き水の水源」であることがわかりました。そういえば、当方は北海道に住んで
60年を超えますが、いまだ根室にいったことがないのでありました。その昔、根室
は「色媛」というお酒があったのか。