最近買った本など 8

 深沢七郎さんの小説「流浪の手記」を読んで、この作品に書かれている季節のことを
思っておりました。
 昨日は、札幌に来た時に「スズラン」がさかりであったというところに反応しました。
それからのことですが、深沢さんは石狩の浜へといくことになります。
石狩川が海にそそぐ石狩浜だ。私はさっきからこの浜に咲き乱れている北海道の花
ハマナスの花びらをむしっていたのである。あでやかな、濃い、明るいピンクの大きな
花びらは、甘い甘い香りなのだ。・・・
 海岸では寒くてふるえながら泳いでいる人たちの騒ぎもときどきしか聞こえない。
私はここへなにしにきたのだろう?私はある一人のヒトに会うために来たのだ。」
 ハマナスというのは、ずいぶんと長く花をつけていますので、ハマナスの花が咲いて
いたというだけで時期を特定することができません。ここでは「寒さにふるえながら」
とあるのがヒントになるでしょうか。北海道で海水浴ができる時期はうんと短くて、
せいぜい7月中旬から8月のお盆時期までのことです。
 札幌に来た時は、警察官が警護をしていたということです。石狩浜に行ったときには
警官の同行を断っていたとあります。石狩へとむかう10日ばかり前のことだそうで
す。
「その晩 十日ばかり前のことだった。私は急にひとりぼっちになりたくなったのだ。
それは、苫小牧の街を歩いていた時だった。夜の街にレコードが聞こえてきて、その
歌は私を責めつけるように響いてきたのである。その歌のギターの音も私の胸をかき
むしったのだ。久しぶりのギターの音で私の身体は痙攣を起こしたのだ。それは楽し
い痙攣ではないのだ。恐怖にふるえた痙攣だ。
 夜がまた来る、思い出連れて
 俺を泣かせに足音もなく
 恋に生きたら、楽しかろうが
 どおせ死ぬまで、 シトリシトリぼっちさ

 この歌が聞こえてきて、私は突然ひとりぼっちになりたくなったのだ。私を護って
くださる方々には申しわけないのだが、私は突然、走り出したのだ。それは駅の方で
汽笛が鳴った時だった。北海道は石炭をたく貨車が多い。煙を吐く音と汽笛の音は私
の幼い時の、あの時の記憶を呼び起こしたのだ。」
 きっかけになった歌は、検索をかけてみましたら小林旭の「さすらい」とありまし
た。「渡り鳥シリーズ」で使われたものだそうです。
 深沢さんは、もともと職業でギターをひいていた方でありますので、この歌に
鋭く反応したのでありましょう。