最近買った本など 7

 深沢七郎さんの小説「流浪の手記」を読んで、どのくらいの期間、北海道で暮らして
いたのか調べてみましょうと思っていましたが、深沢さんの小説でありますからして、
これはまるで判然としません。「流浪の手記」を、そのような読み方をしてどうするの
かといわれそうであります。
 まあそれはそれとして、「流浪の手記」で一番具体的に日々の生活のことが記されて
います札幌でのことから、季節についてのくだりを見てみることにしました。
「札幌に来たときはスズランの花がさかりで街の角では一把十円の束や二十円の束を
花売りが売っていた。それからラベンダーの花も花売りの籠の中で見とれたし、海に
近い道ではハマナスの花がどこにも咲いていた。」
 スズランの花とありますので、これは6月のことでありましょう。1961年の頃といえ
当方は十歳くらいとなります。その当時にすんでいたのは札幌と千歳空港のほぼ真ん中
あたりになりますが、そのあたりにはスズランの群生地がありました。そのあたりの
こどもたちは(皆ではありませんが)、そこにいってスズランを摘んでは、輪ゴムで
束ねて、それを国道を通る車にむけてアピールし、車が停まるとそれを一束十年とかで
販売したものです。まだまだ自家用車を持っている人が少ない時代でしたから、田舎の
子供たちが富裕の人にスズランをえさにして、小遣い銭をねだっているような趣であり
ました。近所の年長者について、その場にいた当方は、先輩たちが見事に車をとめるの
を見て驚いた記憶があります。今から50年ほど前のことですが、「流浪の記」を目にし
て、札幌ではスズランの花束が街角で販売されていたと知りました。
 かってのスズランの群生地はいまどうなっているでしょう。最近まで宅地造成もされ
ずに原野のままであるようですが、近くに資材置場などができていて、スズランがいま
も残っているという話は聞こえてきませんし、札幌の街角でのスズラン花売りの姿も
いまは姿を消しているようです。