考える人 文庫特集 10

 私にとっての最近の新潮文庫といえば、よくもわるくもこれでありましょう。

気まぐれ美術館 (新潮文庫)

気まぐれ美術館 (新潮文庫)

絵のなかの散歩 (新潮文庫)

絵のなかの散歩 (新潮文庫)

帰りたい風景―気まぐれ美術館 (新潮文庫)

帰りたい風景―気まぐれ美術館 (新潮文庫)

 「きまぐれ美術館」シリーズが新潮文庫にはいった時には、多くの読書人が新潮文庫
えらい!と喝采をあげたはずであります。年に一冊のペースであったとしても、あと
数年したらゴールにたどりつくはずと思ったのは2000年くらいのことです。
 ところが、それからさっぱり新潮文庫からはこの続きが刊行される知らせはなく、
どうなったのかと思ったところで元版のほうが一括で箱入りでセット販売との知らせで
あります。これによって、それまででていた新潮文庫のほうは、あっさりと増刷が見送
りとなったようで、通常の書店での入手はできなくなってしまいました。
 ロングセラーを文庫化して新しい読者を獲得することで、その本を古典としていくよう
な方向づけが望ましいのでありますが、むしろそれとは逆に、セット化して高額商品と
することで若くてあまりふところ具合のよろしくない層を切り捨ててしまっているよう
に思われます。
 先日に言及した小林信彦さんの「日本の喜劇人」と同じような取り扱いで、当方は
これがとても残念なことに思います。
 なんといっても「きまぐれ美術館」シリーズは、「芸術新潮」で連載され、その後
新潮で単行本化されて、ついに文庫化という新潮命のような歩みの著作でありまして、
これをロングセラー化するというには、文庫での完結しかないでしょう。
 河出文庫版「須賀敦子全集」が書架に並んでいるのを見るにつけ、新潮文庫の腰砕け
が残念でなりません。