「図書」4月号 5

 金文京さんの本を、大阪の本屋で立ち読みをしていた時、「和歌山にある昔の徳川
ゆかりの別邸かが、今は関西の居酒屋チェーンの所有になっていて、いまは食事処と
して利用されている」というくだりを眼にしたと、一昨日に記しました。
 その時、手にしたのは「漢文と東アジア」と「水戸黄門『漫遊』考」の二冊であり
ましたので、このどちらかにそれがあったのだろうと、両方のなかを見ているのです
が、これが見つからないのでありますね。だんだんとあのくだりを見たのは、別の
本であったかとも思えるようになっているのですが、まったく本筋とは違ったところ
で刷り込みがされてしまったことです。
水戸黄門『漫遊』考」は、単行本ででたときに変名で刊行されたと武藤康史さんの
紹介にありました。

水戸黄門「漫遊」考

水戸黄門「漫遊」考

 上にあるように元版刊行時の著者名は「金海南」となっていました。この変名につい
て、「講談社学術文庫」版のあとがきで、次のように記していました。
「本書は当初、金海南というペンネームで発表した。由来は私の父の出身地である韓国
全羅南道海南郡にある。私自身は日本生まれだが、父祖の地を忘れたくないという気持
ち、そしてこの地名が韓国だけでなく、日本(和歌山県海南市)と中国(海南島、今は
海南省)にもあることが、この名前を用いた理由である。しかし今回は出版社の要望も
あり、本名にした。
 本書が講談社学術文庫に入ったのは、福嶋亮大氏の推挙による。福嶋氏は、中国近代
文学の研究者であると同時に、新進気鋭の評論家でもある。そして、私は、実は氏の
指導教授である。といっても、これはあくまで名目だけのことで、私は氏と雑談をした
ことはあるが、指導をしたことはない。その『教え子』の推薦で本をだすのは、話が
あべこべ、逆縁といってもよいかもしれないが、私としては率直にこの縁をよろこび
たい。」
 このようなあとがきを書く人には、とても興味がわきます。