堀田善衛さんの著書「スペインの430日」は、スペインでの日々を日録風に綴った
ものです。書き出しは77年7月17日で、この日は堀田さんの60歳の誕生日となります。
この年の5月に日本をでて、スペインの目的地についたのが7月10日とあります。
書き出しとなる7月17日は、以下のようになります。
「 朝から素晴らしい天気である。
今日、小生の六十歳の誕生日である。
その予定にしてきたこととはいえ、思えば妙なところで誕生日を迎えたものである。
ここは北スペイン、カンタブリア海に面したアストゥリアス地方のアンドリンという
村である。戸数四十、人口二百五十人、牛も二百五十頭。漁村と聞いてきたが、海
までは、五キロほどあって、漁村ではなく、牧場村である。」
当方は、この本がちくま文庫にはいった時に読んでいると思うのですが、89年9月刊
ですから、いまから20年ほど前のことです。
そのときは、堀田さんの日録が60歳の誕生日を期してのものということに、特に感慨
はありませんでした。いまこの時に、これを見ると堀田さんは、今の自分と同じ年の
頃に、スペインにわたることになったのかと思いが深くなりました。
この「スペインの430日」は日付がはいっていますので、ありがたしです。
「 77年8月14日 突然、英文学者のN氏とカメラのS君、車で来訪。ピレネー山脈取
材の帰りだと言う。N氏は名の知れぬ大魚を持って来て刺身をつくってくれたが、
閉口それにこのN氏は大ヨッパライなり、これも閉口。
静かに暮すということはなかなか出来ぬことか。そういえば、鴨長明の山中方丈
暮しもそれほど静かなものではなかったようである。
今後はアドレスを出版社にも秘すこと。
77年10月21日 カメラのS君来訪。いささか騒がしいが、愉快。闘牛写真の専門家
で、かってアンダルシーアの田舎に四年ほどいたとのこと。」
上記にあるカメラのS君というのが、佐伯泰英さんの若き日でありました。
堀田善衛さんを閉口させた英文学者のN氏とは、佐伯さんが「私にとってスペイン暮し
の師匠」と永川玲二さんでありました。
この永川さんについては、かって丸谷才一さんの本から引用したことがありました。
( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20070618 )