文学全集と人事 10

 最近は、かってのような「文学全集」が企画されなくなっています。これは、
全体として60巻を超えるような企画を購入しようという物好きがいなくなっている
からですね。文庫版となった「ちくま日本文学全集」であれば、置き場所に困る
ことはないかもしれませんが、菊判とか四六版であれば、書棚の何段かを占有して
しまいます。
 かっての文学全集は、臼井吉見とか小林秀雄というのが編集にかかわって、いわ
ば文壇人事を仕切ったわけですが、最近でそのようなことをやれそうなのは、やは
丸谷才一さんということになるのでしょうか。
 工作舎からでている岡崎武志さんと山本善行さんの「新・文學入門」に収録の
「新・文學全集を立ちあげる」の一行目に丸谷才一さんの名前が登場します。

古本屋めぐりが楽しくなる―新・文學入門

古本屋めぐりが楽しくなる―新・文學入門

 この「新・文學入門」は岡崎さんと山本さんの対談という形式になっていまして、
口火を切るのは岡崎武志さんです。
「 文学全集について初めに予備知識を。
丸谷才一と17人のちかごろジャーナリズム大批判』(青土社、1994年)をもとに
ちょっと演説します。この本のなかに、丸谷才一が谷沢永ー、三浦雅士と日本の
文学全集について語った章がある。・・・この手のアンソロジーによる巻立てで、
文学史を見渡すような全集は、日本独自のもので外国には見あたらないらしい。
最初にこのスタイルをつくったのは、ごぞんじ、改造社の『現代日本文學全集』(
1927〜1931)でいわゆる『円本』やな。」
 円本というのは、戦前に刊行となったものですが、流通数がものすごく多かった
せいもあって、こどものころに父の本棚で何冊か見たことがあります。杉浦非水の
装幀が印象的で、人目でそれとわかるインパクトがありました。