文学全集と人事 3

 52年10月に刊行となった角川書店からの「昭和文学全集」の初回配本が横光利一
であるというのは驚きです。横光利一さんが、戦争末期のころの文化ヒーローで
あったことは、加藤周一さんの「羊の歌」でのとりあげでもうかがえるのですが、
こういった時代の雰囲気というのは、なかなか伝わって来ないことです。
 筑摩「現代日本文學全集」の初回配本が「島崎藤村」というのも、へーそうなの
かと思ってしまいます。
 昨日に目にした岩波「図書」7月号の丸谷才一さんの文章のなかには、「今では
わかりにくいかもしれないけれど、昭和十年代の彼は『夜明け前』のせいもあって、
漱石をしのぎかねないほど偉かった。」とありました。筑摩の「現日」が刊行と
なったのは、53年(昭和28年)ですから、昭和十年代ほどではないにせよ、漱石
ならぶ存在であったのでしょう。
 この筑摩「現代日本文學全集」から15年を経過して刊行されたのが、昨日に内容
見本を掲載した「現代日本文學大系」となります。この内容見本も「読ませる内容
見本」の見本のようなものでありまして、本文32ページでありまして、資料価値も
大変高いものです。