文学全集と人事 5

 故人となった作家ばかりをとりあげるのであれば、文壇人事にかかわりあうことも
ないでしょうが、それでは、まったく新しい作家が登場する幕がなくなってしまい
ます。昨日に見たように文学全集が次々と企画される時は、他との違いを強調しなく
てはいけません。
 とはいうものの、やはり定番から配本されるというのがセオリーであります。
68年(昭和43年)に筑摩書房から刊行が始まった「現代日本文學大系」の配本は、
次のようになっています。
第1回 芥川龍之介
第2回 島崎藤村 (一)
第3回 夏目漱石 (一)
第4回 志賀直哉 
第5回 川端康成
 この第5回までで、存命であったのは川端康成さんだけであります。ちなみに、
川端康成さんは、この68年にノーベル文学賞を受けていますので、まずまず妥当な
配本ということになるのでしょうか。このあとが、どのような配本となったのかは
わかっておりませんが、順調にいって全巻完結まで五年六カ月とありました。
たしか、これよりも相当に遅れたような気がします。
 全97巻となりますが、一人で二冊を割り当てられているのは、島崎藤村
漱石、森おう外、永井荷風谷崎潤一郎の5人であります。
 一人で一冊となっている人も、意外と少なくて、露伴徳田秋聲正宗白鳥
柳田国男、武者小路、志賀直哉有島武郎斉藤茂吉佐藤春夫、芥川、川端
康成、小林秀雄だけであります。
 井伏鱒二上林暁と二人で一冊、石川淳安部公房大江健三郎とで一冊、
太宰は坂口安吾とで一冊です。
 97巻もありますが、明治から戦後の作家までをカバーしようとしますと、この
ようになるのでありますね。
 この「現代日本文學大系」で、当方が一番歓迎したのは、「加藤周一・中村
真一郎・福永武彦」が一冊となったことであります。この三人のなかでは、この
時点で、加藤周一の小説作品が、文学全集に収録されたというのが画期的なこと
でありました。この三人が顔をそろえたことによって「1946 文学的考察」が
収録されたのがよろしでした。たしか、この時代には、元版でなくては、この
「1946 文学的考察」を読むことができなかったのであります。この作品が
富山房百科文庫に入るのは、それからずいぶんとたってのことでした。