連日片付けを 3

 亡父の部屋の片付け作業をしていたらでてきた「文學界」昭和23年4月号を話題に
しています。
 昨日は青山二郎さんの「文學界」表紙デザインなどを見ておりましたが、この時代
青山二郎さんの存在は、極めて大きなものがありました。その後の時代を担う文化
人たちが、青山さんのまわりに集まって、それは「青山学院」と呼ばれたのであり
ます。
 この時代に「文學界」の編集を担当していたのは、「青山学院」の一人であった
河上徹太郎さんでした。
 この号は、横光利一追悼特集でありますが、これについての河上さんによる編集後
記を引用です。
「然し、追悼号といふものは、編輯の上では実に手間のかからないものである。そこ
には故人の人徳もあるのだが、頼んだ人が皆進んで書いてくれた。殊に座談会に菊池
寛、川端康成の両先輩が殆ど自発的に出席して下さったことは、編輯者気質を出して
いへば、『文學界』ならではのことである。初めは対談のつもりだったが、進行の
都合上、編輯部に居合わせた今・舟橋・河上の三人が適宜参加した。そして話を一切
理論めいたことに亘らせず、終始人間横光へのアンティムな追憶談にした。」
 横光利一さんのものは、ほとんど読んだことがなしですが、その時代には大変な
人気作家でありまして、以前にも言及したことがありますが、「昭和27(1952)年
十一月から配本がはじまった角川書店の『昭和文学全集』は、第一回配本が横光利
一でしたが、好調なスタートを切り、苦境にあえいでいた角川書店を安泰にした。」
とのことでした。60数年まえのことですが、今では考えられないことと思います。
 その上、横光さんには気の毒なことでありますが、加藤周一さんの「羊の歌」に
には、若くて怖いもの知らずの旧制高校生たちに完膚無きまでに叩かれる横光さん
が描かれています。これを見ますと、横光さんは読まんでもいいかという気分に
なってしまいます。
 当方がわずかによんだ横光作品は「旅愁」でありまして、これは篠田一士さんの
おすすめによるものでした。
 それはさて、昨日に写真を掲げた目次の一番後ろのところにあったのは、森敦
さんの小説「潮とまとり」という作品です。
 森敦さんとは、もちろん後年に「月山」で芥川賞を受けることになった方です。
河上さんの編集後記には、次のようにありです。
「創作は新人森敦氏の異色ある長編の発端を以てした。森君は横光氏の数ある弟子
と呼び得る人の中でも、殊にその名に値する人で、氏は昨秋その臨終に至るまで
この長編を完成することを激励してやまなかったものである。その点、霊前に手向け
し得る最適の作品だと私は信じてゐる。」
 森敦さんのこの作品は、未完に終わったとのことです。