ことしのおすすめ 4

 「ダ・カーポ」特別編集による「今年最高の本」というぴかぴかつるつる雑誌を
手にしていましたら、いまはなき「鳩よ」というマガジンハウスのことを想いだし
ました。「ダ・カーポ」は、いかにもおやじむけの雑誌でしたが、「鳩よ」の末期には
「L文学」というジャンルを積極的にとりあげて、ジュニア小説の作家としてデビュー
して、その後一般むけの小説などに転じた作家を紹介しておりました。この特集で
中心的な役割を果たしていたのは、斉藤美奈子さんでありましたが、あの頃の
「鳩よ」というのは、もうすこし評価されてもよろしいでしょう。
 「新潮」「文学界」「文藝」というような老舗の文学雑誌は、どうみても若い
女性をターゲットにしているように見えないのですが、それと比べると、マガジン
ハウスの「鳩よ」は、新しい流れを感じ取ることができたのでした。
この時の「鳩よ」というのは、創刊時の大判で詩などの投稿雑誌の趣のあったものでは
なくて、版型がかわって坪内祐三さんが「7人のへそまがり」を連載するようになって
からのものです。
 さて、この「今年最高の本」で、斉藤美奈子さんの「L文学」路線を感じるのは、
「女子読み恋愛小説ベスト10」というものです。これのリード文には、次のように
あります。
「三度の飯より恋愛小説が好き そんな本読みのプロたちが、ワイワイ集い、ガールズ
トークを炸裂。しっかり読み、かたり、悩んだ上でベスト10を決定してもらった。」
このところで、本読みのプロとして登場するのは、高倉優子、藤田香織、涌井香織の
お三方でありますが、どのお一人も名前を聞くのが初めてであります。
 これのベスト1は、中山可穂サイゴン・タンゴ・カフェ」というものですが、
「読み終えたあとしばらく、物語の世界に心を落っことしてきたような感覚が続いた
くらい。」とありました。このような恋愛小説というのには、ほとんど縁がない
せいもありますが、このように評されているものがどういうものか興味がわきます。
「ピュア系だと三羽省吾さんの『公園で会いましょう』、ランク外だけど中田永一
さん『百瀬、こっちを向いて。』や小川勝己さん『純情期』もよかった。今年は、
男性作家のピュア系作品が豊富だった。」
 このようなくだりを目にしますと、「ピュア系」文学というジャンルがあるのかと
思われるのですが、これはかっての「純粋精神」による作品群をさしていないことは
間違いありませんん。
 それにしても、ほんとうに多様でありまして、これのどこが次の主流派を生み
だすかわからないのが、よろしいことです。