図書館から借りた本 3

 図書館から借りた本、本日は佐久間文子さんの「『文藝』戦後文学史」を読んでお
りました。

「文藝」戦後文学史

「文藝」戦後文学史

「文藝」(時代によっては「文芸」)という雑誌は、創刊されたのは1933年のことで、
その時の版元は改造社、初代編集長役をしたのは上林暁さんという、なかなか由緒の
正しいものであります。
改造社は、戦時中の言論弾圧で会社を解散に追い込まれ、「改造」は廃刊になって、
「文藝」という誌名は河出書房に譲渡されたとあります。
 戦時中の1944年11月に河出書房から最初の「文藝」が刊行されたとあります。
それから河出書房の数回にわたる倒産、経営危機に直面しながらも「文藝」はいまに
続いているのであります。
 文芸誌を出し続けるというのは、相当に体力のいることでありまして、河出におい
ても始終採算があわないので廃刊が論じられたとのことであります。文芸誌をだして
いる「新潮社」「講談社」「集英社」とくらべましたら、会社の規模が小さいですか
らね。講談社コミック雑誌などで得た資金を文芸部門に投入して文芸文庫などを
継続しているといわれていますし、集英社が「すばる」を出せているのも、ほぼ同じ
しかけでありましょう。(ということはコミックが売れなくなったら、文芸誌はとたん
に立ちゆかなくなるということですね。)
 当方は若い頃から小説を読んだりしていたのですが、雑誌や小説連載時に小説を読み
続けるということができませんで、そんなこともあって月々に文芸誌を購入するという
ことはありませんでした。当方が文芸誌を購入したのは、何百枚かの小説が一挙掲載の
ときとか、ひいきの作家の短編が掲載の時くらいでありました。
 佐久間さんの「『文藝』戦後文学史」の初出のタイトルは「編集長で読むサバイバル
史」というもので、編集長に光りをあてた記述となっています。
当方がなじんだ「文芸」は、編集者であれば福島紀幸さんが在籍した時代でありましょ
うか。長谷川四郎さんが短編小説を寄稿し、小沢信男さんも小説を書いていたころで
あります。
 とはいうものの佐久間さんがあげているお名前に、このお二人のことはなしでありま
した。これはすこし残念なり。当方は雑誌掲載時に読んだ長谷川四郎さんの「デルスー
時代」が忘れられないのだけどな。
 佐久間さんが忘れがたいと記しているのは山田稔さんのもので、「1980年代初頭の
掲載で印象に残るものとして、山田稔の連作短編『コーマルタン界隈』を挙げておきた
い。」とありました。
どうやら佐久間さんは山田稔さんがお好きなようでありまして、この本のなかでは、
作家中村昌義さんに関連して山田さんに言及されています。
「中村と山田は単行本の編集者が同じ河出の岡村貴千次郎ということもあり、『文藝』
に載った作品を通して同世代の中村は親愛の情を抱いていた。会うことはなかったが、
中村が亡くなった後で、作中人物のモデルと思われる妹のやっている飲み屋を岡村と
ともに訪ね、闘病中の兄と妹の細やかで濃密なやりとりをエッセイでも小説でもある
ような文章で描出している。」
 この山田稔さんの文章は「別れの手続き」というもので、みすず大人の本棚には、
堀江敏幸さんが選した一冊があり、これの書名が「別れの手続き」でありまして、
これは山田さんの代表的な一作ということになりです。
別れの手続き――山田稔散文選 (大人の本棚)

別れの手続き――山田稔散文選 (大人の本棚)

 本日は佐久間文子さんのおかげで、山田稔さんの文章をいくつか読むということに
なりました。