チャトウィン元年 2

 イギリス文学というと紀行小説などが定番としてあるというのは、篠田一士さんの
著書「現代イギリス文学」で語られていることです。
もともとは垂水書房からでていた「現代イギリス文学」でありましたが、その後増補
されて小沢書店から「新編 現代イギリス文学」として刊行されました。

現代イギリス文学 (1962年)

現代イギリス文学 (1962年)

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 元版には「旅行記について」という章がありです。ここに次のような記述があります。
「イギリス文学のもっとも光栄ある部分、たとえばフランス文学の場合にはモラリスト
のマクシームのような、その文学にのみ許された独自の光栄をもとめるとすれば、さし
ずめぼくとしては旅行文学を挙げたい。」
 旅行文学がイギリスにおいていかにメジャーなものであるかということを、この文章
で知ったわけです。
「新編 イギリス文学」には、「新しい旅行記を求めて」という文章が掲載されていま
す。昭和61年12月ころに丸善の雑誌「学鐙」初出のようです。
この文章の書き出しは、次のようになります。
「旧著の第二章は『旅行記について』である。イギリス文学を少しでも本気になって読
めば、かならずや、旅行記の系譜ともいうべきものが綿綿と書きつがれていることに気
づくはずだが、はたして、その旅行記が詩や小説、あるいはエッセーと同じように、
掛値なし正真正銘の文学作品とよぶにふさわしいものかどうかということになれば、
だれしも躊躇せざるをえないだろう。・・・・・(中略)・・・
 旅行記なるものは、すべて実用が大事というのが今日の趨勢らしいが、そもそも、
旅行記は旅行をしない人たちのために書かれ、彼らの夢をかきたてるのが、最上の功徳、
それでこそ、旅行記は立派に文学作品たりうるのである。」
 ということで、篠田さんが最近の旅行記作家でのおすすめの人の登場となります。
「だれは措いても真先に挙げておきたいのは、ブルース・チャトウィンだ。
パタゴニアにて』と『ウィダーの副王』を発表しているが、文章力は抜群、しかも、
作品の内容に従って自在に文体を変えることができる、稀有な文才の持主だ。」
 当方は、この文章を目にしたときに、チャトウィンの名前と出会っているという
ことになるのですが、残念ながら、まったく記憶に残っておりませんでした。