昨日に引き続きで長谷川四郎さんの小説を手にしておりました。
「遠近法」というタイトルの小説集ですが、80ページほどの作品が四編収
録されていまして、流して読めばすぐに一丁上がりとなりそうなものの、これ
がなかなか一筋縄ではいかずです。
これまでも何度か読もうとしているのですが、すぐに乗り上げてしまって、
短編であるのに、最後までたどりつけずでありました。そういう意味では、
今回こそという気分です。やっとこさというか、なんとなくすこし手応えを感じ
ながら昨晩から先ほどまで読んでおりました。
当方は小説は筋を追って読む方でありまして、イメージをつなぎながらの
小説は不得意です。「シベリア物語」とか「鶴」というシベリア時代のものは、
筋があるという感じですが、その後の小説は、それまでの小説とは趣が違っ
て、本来の四郎さんのスタイルとなっています。
「遠近法」1958年8月再版本にまかれている帯の背表紙のところには、
「前衛文学」という文字が入っていますので、わかりにくい小説ということに
なるのでありましょう。
どちらにしても、長谷川四郎さんとか小沢信男さん、川崎彰彦さんの作品
は、細く永くで、これからもずっと読んでいくことになるんだろうなと思うこと
です。二十代にはいってまもなくから読んでいるのですから、これまで50年弱
で、これからあと何年付き合うことができるのでありましょう。
ちなみにこの「遠近法」は書肆パトリアが版元でありましたが、最近まで読ん
でいた三木卓さんの「若き詩人たちの青春」に「パトリア」がでてきました。
三木さんの本から引用です。
「1957年の雑誌『現代詩』は、新日本文学会の詩委員会が統括する機関誌
だったが、発行元は外部の出版社だった。詩の雑誌など赤字になるに決まって
いるから、発行元は転々とかわっていて、ぼくがかかわったときは書肆パトリア
という出版社だった。長谷川四郎や小林勝の小説など、新日本文学会系統の
作家の本を出していた新興出版社だったと記憶する。
発行人は丸元淑生といった。」
三木さんは、これに続いて丸元さんが後年に小説を書いたり、料理本で有名
になるということを紹介するのですが、書肆パトリアについては、次のように書い
ているのです。
「(書肆パトリア発行人)当時の丸元は、東大仏文を卒業したばかりか、それと
も、まだ学生の身か、ということになる。そんな紅顔の青年が、どういう事情から
出版社などやっていたのだろう。・・書肆パトリアは光クラブのような怪しげな
ものではなく、きわめてまじめな出版社で戦後日本文学のために尽くしてくれ
た。が、花のいのちはみじかくてで、あまりいい目はみなかったのではないかと
思う。丸元淑生はどういう思いをしていたのだろうか。」
「パトリア」のおかげで長谷川四郎さんの「遠近法」を読むことができるので
ありますね。