枯葉の踊り 2

 本日も串田孫一さんの「枯葉の踊り」雪華社から話題をいただきます。
串田孫一さんは、ご自分でも装幀をするかたでありますから、出版社と
意見が合わなくて売らんかなの装幀となった自著については、せっかく
できたにも拘らず、まったく愛着がなくなるとのことで、自分で装幀の
やり直しをしたくなるのだそうです。
「 そういう時には、何冊か自分で自分の本を買い、直ちに見るのも
腹立たしい表紙をとりのぞいて、自分で特装本を造りたくなる、カバーを
かけたぐらいでは到底気持ちがおさまらない。 
 特装本を造る場合も歩みよりは当然あって、それが一層微妙な問題に
なる。特装版を造りたいという希望が出版社の側から出る時は、担当者が
ともかくそういうことをしてみたいという場合でも会社の許可は必要で
あろうし、そうなれば予算のわくも決められる。」

 出版社の企画で特装本を造るというのは、けっこう面倒な手続きが必要で
あるということがうかがえます。これは会社としてやるからには当然の
ことで、出版社も採算を度外視した企画はとおらなくなっていますからね。
「 出版社の担当者との相談がはじまるが、その人が特装版の造り方に
ついて強いある意見をもっていたり、紙や布や皮、つまり材料の質や色に
ついても強い好みをもっていると、相談は難行する。難行するけども
おもしろい。
 普通の出版社の方で、何冊も特装本を手がけている人は少ない。
先方から教えられることも、勿論あろうけれども、こちらから教えることも
多い。すこし大きい出版に常に何万という部数の本を造っている編集者だと、
最後は製作の係の人に渡してしまうために、本の各部分の名称さえ曖昧な人が
いる。
 ほんとうは限定版とか特装版とか言われる特殊なものを造る場合は、根本から
考え方を変え、つねづねそのことに考えを向け、研究を続けながら試みという。
芸術の分野での仕事と心得るべきで、その意味では妥協があってならない。」
 串田さんご自身は、「本はすべて仕事に結びついた一種の道具であるから、
必要なものは買い、これでおしまいということはない。しかし限定版と普通版が
あれば、普通版のほうで充分である。特装本を贈られることもあるが、あまり
立派だと気軽に本を取りだして読むのが悪いような気がしてくる。」と書いて
います。