杉浦康平のデザイン12

 昨日に写真を掲載したのは、河出書房「日夏耿之介全集」内容見本の表紙です。
当方は、個人全集などの内容見本を捨てることができずに、残しておりますが、
そのなかで一番すごいと思うのは「日夏全集」のものです。個人全集というのは、
高価でなかなか購入することができませんでしたので、内容見本を入手して、それ
で我慢せざるをえなかったのです。
 この全集は72年10月に第一回配本ですから、内容見本もその頃にでたのでしょうか。
この見本は本当に豪華なものですから、そこいらの本屋にはおかれていなくて、
河出書房に「内容見本ご恵贈ください」とはがきを送って、いただくことができ
ました。この内容見本は、日夏全集内容見本の専用封筒(!)にいれられて送られ
てきました。ここまで、こだわっている内容見本ははじめてでありました。
 この全集のことは、昨年にかって河出書房の編集者で装幀もやられた藤田三男さん
の「榛地和装本」を話題にした時に、拙ブログで取り上げておりました。
( http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20091015 )

 今回は、内容見本の写真を掲載することになりましたので、再度、この本から
引用することにいたします。

( この写真が内容見本の表紙となります。中心にある装画は長谷川潔さんによる
もので、大正6年の日夏の詩集「転身の頌」特装本の表紙を飾っているものです。
この全集では、外箱に使われています。)
「『全集』の編集は、岡村貴千次郎さんが当った。この徹底した完璧主義者の編集者
(こういう人は少なくなった。)は、河出の三奇人の一人である。飯田貴司さん、
龍円正憲さん(現集英社出版部長)がそれだが、河出にはよくもまあ、こう妙な
連中を集めたものだというくらい個性の強い編集者が多かった。
 岡村さんの仕事して、特筆すべき個人全集に『日夏耿之介全集』全八巻がある。
装本は、装画・長谷川潔、ブックデザイン 杉浦康平の両氏で、戦後出版史上、最上
の美本の一つといってよいと思う。岡村さんが在フランスの長谷川氏に依頼すると、
装幀そのものを依嘱されたと思われたらしく、細かな文字指定や、スミの刷り(日本
製のインクは不可)などの指示が届き、岡村さんを慌てさせた。
 この全集は井村君江さんが中心になり、若き日の池澤夏樹さんが、社へ日参して
編集に当たった。池澤さんは父君福永武彦さんゆずりの編集好きの青年であった。
 装本も見事だが、その本文校訂、校異の精緻なことも特筆すべきものだ。のちに
その校訂で評価の高い筑摩書房版『校本宮澤賢治全集』が、この全集の校異を範と
したことを記録している。」

 圧倒的な存在感を示す「日夏耿之介全集」でありますが、これまで縁がなく一冊も
購入しておりません。「日本の古本屋」をみますと、端本の一冊くらい買えないこと
もないかと思うのですが、わたしにはもったいないかです。