「デルス・ウザーラ」と黒澤明

 本日届きました「本の話」をみていましたら、小林信彦さんの「黒澤明という時代」に
次のようなくだりを見いだしました。
「 太平洋戦争以前、1939年(昭和14年)に堀川博通氏は神田の古書店で『デル
ス・ウザーラ』の原作を手にした。読んで、非常に面白かったので、黒澤明に手渡した。
堀川博通氏が手にした『デルス・ウザーラ』は『満鉄調査部報』という本の中にあった
ものだ。<満鉄>とは南満州鉄道株式会社の略称である。」
 デルス ウザーラという作品を、最初にみたのは「筑摩書房」の「現代国語」教科書に
よってでした。その後になって東洋文庫からでている単行本を購入し、いまではいくつか
の版本を入手して、それで満足、いまだに読み通しておりません。いくつかの版本をそろ
えているのは、翻訳者が長谷川四郎さんであるからでして、黒澤明さんが、このとき手に
したものは長谷川四郎さんの翻訳であるのかどうかが気になったのでした。
 一番とりやすいところにあった、平凡社東洋文庫」版の本を手にして訳者あとがきを
みてみました。そこには、以下のようにありました。

「 アルセーニエフのウスリー紀行『ウスリー地方にそって』は南満州鉄道会社調査部の
翻訳で社内刊行物として出版され、あとで朝日新聞社から『ウスリー探検記』と題して
発行、市販された。第二回の紀行『デルスウ・ウザーラ』の翻訳が、すなわち本書である。
 第三番目の著書『シホテアリニの山地にて』は、これまた南満州鉄道会社調査部の社内
刊行物として翻訳出版されたが、市販されなかった。訳者のしるかぎりアルセーニエフの
著作で日本語に訳されたのは以上の三冊である。その他の著作については、その原文も
訳者は読んでいない。・・・・
 二十二年以前の1943年当時、私もまた南満州鉄道会社調査部につとめていて、
アルセーニエフの著作を読み、この『デルスウ・ウザーラ』の訳がまだ出ていないのを
知って、これを翻訳し、満州事情案内所から出版したものである。」

 堀川博通さんが読んで、黒澤明さんに薦めた翻訳は、残念ながら長谷川四郎さんの訳
ではないようです。この時代の調査部にはいろいろな人材が身を寄せたいたとみた記憶が
ありますので、そうした人々が共同で翻訳をしたものでしょうか。長谷川四郎さんには
「デルスー時代」という作品を残して、その当時のことを記していますし、ご子息の手に
なる満鉄時代の四郎さんについての著作もあることか、もうすこし調べてみることにいた
しましょう。