講談社文芸文庫2

 文芸文庫が登場する前は、一般文庫にずいぶんと文芸作品が収録されて
いたのでした。あの角川文庫でさえ、そうでありましたから。
もともと文庫というのは、ロングセラーを目的として廉価版で提供するという
コンセプトになっていて、文庫に入ると、名作として評価されたと思われた
ものです。
 各社の文庫から文芸作品が姿を消すのと、文庫を刊行する会社が増えたのとは
関連があるように思います。昔の新潮文庫の目録などを見てみたら、文学作品の
ところのラインナップは、文芸文庫も真っ青の充実ぶりでありまして、これらの
文庫がこの値段で入手可能であったのかと思うのでした。
 もちろん、文芸文庫が登場したのは、文学作品が売れなくなって、一般の文庫に
収録するのが困難になったからです。それじゃ売れ筋の作家は、文芸文庫に入って
いないのかとなると、そうでありまして、両村上、山田詠美なんてところは、まだ
はいっていないのではないかな。( 文芸文庫目録はあるのかもしれませんが、
講談社はあまり目録を出さない会社のように思います。)
 文芸文庫のベースは、もちろん講談社文庫でありまして、この文庫が刊行された
当初は、ボドニーマークの講談社文庫と売り出され、亀倉雄策のデザインで統一した
表紙が斬新でありました。あのボドニーマークといわれた緑、黄色、赤で分けられた
時代の講談社文庫がなつかしいことであります。
 文芸文庫は、ほかでは読むことができないものが多くあるのですが、そのなか
でもオリジナル編集物が極上でありましょう。そうしてみると文芸文庫で一番貴重
なのは、内田櫓庵ものであるのかもしれません。