中野書店「古本倶楽部」3

 古本倶楽部を見ていますと、作家の浮き沈みを感じることがあります。
小生は人気ある作家は、あまり好みではありませんので、流行作家のものは、
ほとんど手に取ることはないのですが、その昔に飛ぶ鳥を落とす勢いであった
作家のものが、ほとんど古本では値段がつかないというのを見ますと、作家の
運命(というか生き方か)というようなものを感じてしまいます。
 それでいきますと、非流行作家というかマイナーな存在の作家は華々しい
時期もないかわりに、いつまでも一定の根強いファンがついていますし、そも
そも発行部数がすくないので、あとになってから入手するのが困難ということも
あって、値段が高くなるようです。
 このように記しますと、それぞれの人が、前者の代表的な存在としてあの
作家のことを思い浮かべ、後者の代表として別の作家のことが頭に浮かぶはずで
あります。どちらかというと、世間の評価が低くて、肌合いのあう作家のものを
偏愛していたほうが、あとからの楽しみは大きいというような気がします。

 この目録を見ていて驚いたのは、書肆山田からでていた「草子」という
シリーズにずいぶんな値段がついていることです。書肆山田は、いまも会社が
あるのですが、経営者はかわってしまっています。小生の手元には、この「草子」
シリーズの3冊が残っています。 

 草子 1 星と砂と 日録抄 瀧口修造 フランス装 のもの定価300円
 昭和48年 2月25日発行 発行人 山田耕一  発行所住所 台東区浅草

 草子3 異霊祭 吉岡 実    定価360円
 昭和49年4月25日     発行所住所 台東区雷門

 草子4 ゴヤを見るまで 飯島耕一  定価360円
 昭和49年8月25日  発行所住所 目黒区自由が丘

 (書肆山田さんは、この一年半のうちに出すたびに住所がかわっているという
  のが大変さをものがたっているのかもしれません。)

 どこで購入したのかは、まったく覚えておりませんが、冊子というよりも
パンフレットのようなものでありまして、そうとうに贅沢なつくりにはなって
いますが、19ページくらいのものでして、360円なら、なんとか買うことが
できました。

 「ゴヤを見るまで」は、飯島耕一の代表的な詩集となった「ゴヤのファースト
ネームは」と深く関係がありです。
「 旅の記録を公開してしまうと、それまで内部に混沌状態で存在していた記憶が
 失われるような気がしてならない。事実の再現はまた我が詩法にふさわしくない。
 ・・・・
  70年10月8日 オランジュリでゴヤを見る。眼が描ける画家だとの印象。、
 明日は東京へ帰ることになる。半年間、江原、澁澤、井上には世話になった。」
以上のような記述があります。もちろん、旅行記ではなく、旅のメモを詩的散文と
したものでした。
 家人に、これがこのような値段で販売されているといいましたら、わが家のは
保存状態がよろしくないので、そんな価値はないよとあっさり指摘されました。
まさに返す言葉がないのでありました。