「絶版文庫の漁誌学」

 本日の午後、ブックオフに立ち寄りましたら、「絶版文庫の漁誌学」
青弓社が目に入りました。札幌に居住する「すずき ゆたか」さんと
いう方が書いたものでありますが、刊行年は88年で、いまから20年
ほど前のことであります。
 あの時代は、古本などについてのエッセイは多くはありませんでしたし、
いまほど普通の人たちが親しむ世界ではなかったように思います。この
本には、青弓社の刊行案内がはいっていますが、これにある古本関係の
出版物としては、次のようなものがのっています。
「 絶版文庫発掘ノート」 岩男淳一郎
「 絶版文庫の漁誌学」 すずきゆたか 
「 古書縦横」山下武
「 古書礼賛」山下武
 
 書店でみたことがあるとは思うのですが、手にしてなかをぱらぱらと
していずれも購入するにはいたらずでした。いまから20年以上も前で
ありましたら、余裕がなくて、このような本を購入するのであれば、
すこしでも探している本を購入したいと思ったことですから。
 ここにあがっている名前では、山下武さんが一番有名であるかもしれ
ません。小生が、就職したばかりのころに、読書家のクラブのようなものを
結成して、そこに加入したら本の交換などができるような会報を発行すると
いう話を聞いたことがありました。山下さんが、まだテレビ局に勤務して
いた時代のことです。ちょっとかわった小説を発表していましたが、この
山下さんは、当時有名な落語家のご子息ということでした。
結局のところ、そのブッククラブに加わることもなしでありましたが、あの
時代には、そのようにでもしなくては、探している本に遭遇する機会には
恵まれなかったのでありましょう。( 探している本が簡単に見つかると
いうことでは古本ネットは、まさに革命的なものです。)

 すずきさんの本のなかから、目についたところを引用しますと、次の
ようなところです。
「 昭和といっても60年を閲してしまえば、ことに戦後40年の世相変貌
 の激しさは瞠目すべきもので、いわゆる戦前の事物、現象のなかにもはや
 理解できない事項が多々生じているのは当然といえよう。 
  早い話が梶井基次郎の名作『檸檬』。今でも高校の教科書に載ることの
 多い作品だが、主人公のあの丸善に対する意識を、実感として生徒に説明
 できる教師が、今、さてどれくらいの数いるのだろう。どの書店でもいいの
 ではない、店は断じて『丸善』・・・丸善とは、誇り高い西欧文化の配達人、
 いや一種のステータスシンボルをもって、逆に出入りする人間を選別して
 いた存在、といえたのではなかろうか。」 

 丸善が大衆化が、丸善を経営不振に陥らせたというのも皮肉な話であります。