「本の雑誌」2月号 3

 今月の穂村弘さんのコラムはタイトルが「薄い文庫本」となっています。
書き出しは、次のようになってました。
「薄い文庫本に惹かれることがあるのは何故だろう。前にも書いた『異邦人』とか、
恐るべき子供たち』とか。先日は、本屋で待ち合わせをしている時に、萩原朔太郎
の『猫町』を見つけて買ってしまった。
 いずれも名作ということになっていて、タイトルも魅力的だ。でも、それらの要素に
加えて、とにかく薄い。そこにモノとしてのオーラが宿っているようだ。文庫の棚に
ならんでいても、薄すぎて逆に目立つのだ。」
 最近でも薄い文庫本の新刊なんてあるのでしょうか。
その昔に古本で手にしたアテネ文庫のものなんて、本当に薄いものでして、全部が
全部ではなかったのかもしれませんが、文庫は薄いに限ると思いました。
ちょうど、先日に購入した岩波文庫蘭学事始」は、かっての岩波文庫の価格表記で
は★一つでありまして、当時の価格では50円でありました。
★の数が多くなりますと、岩波文庫は厚くなりまして、★一つというと150ページ以
内くらいでしょうか。
 「蘭学事始」の巻末には、当時の岩波文庫「100冊の本」というリストが掲げられて
いました。ちょうど当方が高校生の頃の企画でして、それなりに話題になった記憶が
あります。これが選定されたのは昭和37年くらいでしょうか。(創刊以来三十五年と
ありました。)
 この時の選者は、臼井吉見大内兵衛大塚久雄貝塚茂樹茅誠司久野収
桑原武夫武谷三男鶴見俊輔中野重治中野好夫、松方三郎、丸山真男山下肇
渡辺一夫 の各氏でありました。いまではめったに名前を聞くことのない方もいる
ようですが、この当時(1962年)の文化人が勢揃いしています。すでに50年以上経過
していて、この選者で現在も健在なのは、鶴見俊輔さんおひとりであります。
鶴見さんは、このとき40歳になるかならないかの時でありましたでしょう。 
 この100冊のリストは、どこかで目にすることができるはずですが、リストにある
★一つの本は、全部で21冊もあります。
 その昔は、無理にページ数を増やすことなく、束の薄い本を刊行することで、読書
意欲をかき立てたのでありましょうか。「蘭学事始」もあれこれの文章とあわせて、
ページ数の多い本となってしまったら、それだけで読み上げるのが難しく思えて、
手が出にくかったと思います。一日岩波文庫★一つ分読むことを日課にするという話
も、★一つの文庫本がたくさんあったればこそ、ペースをつかみやすかったと思う
ことです。